豊かな感性を活かして、お客様のニーズを的確に読み取り、ピッタリの商品を提案する――あなたもそんな「理想の販売員」のイメージを持っているのではないでしょうか。理想はあるのに、そこにたどり着く道のりが見えずに、悩んでいるかもしれませんね。どうすれば感性を豊かにできるのか、見当がつかないかもしれません。そんなあなたを助けてくれる、おすすめの3冊をご紹介しましょう。① 『感性のある人が習慣にしていること』(SHOWKO著、クロスメディア・パブリッシング)「感性」と言うと、「自分は持ち合わせていない」と思ってしまいがちです。けれども本書では、感性は特別な人だけが持つものではなく、習慣によって身につけられるものだと説きます。それが「観察する」「整える」「視点を変える」「好奇心を持つ」「決める」という5つの習慣です。たとえば「観察する」なら、「気温と湿度を体感で予想してみる」「裸足で生活してみる」。「整える」なら、「ハンガーの数を減らしてみる」「10分間、呼吸に意識を向けてみる」という具合です。具体的な方法論に落とし込まれているので、ピンときたものから試してみましょう。日々の生活の中で、感性を育てられることが実感できますよ。② 『百人一首という感情』(最果タヒ著、リトルモア)感性を育てるためには、感性が豊かな人が物事をどう感じ取って表現するのかを知り、それを真似してみるのがいいでしょう。これは心理学でモデリングと言われるものです。憧れの人のファッションやヘアスタイルを真似するように、お手本にしたい人の行動を真似して取り入れるのです。本書では、詩人である著者が千年前の人たちに思いを巡らせながら、百人一首を紹介していきます。何気なく読み飛ばしてしまいそうな言葉の一つひとつに著者は目を留め、ていねいに情景を浮かび上がらせていくのです。たとえば、夜の小屋で見張りをしている状況から、著者はこう考えます。小屋の中にいるのだから、星を見上げることはできないし、目の前も薄暗いはず。時間の流れもあいまいになり、自分の存在すらも不確かになる中、自分の呼吸と風の音が重なって聞こえてくる……。些細なことからこれだけ多くの情報を読み取り、想像を膨らませていけるのだと教えてくれます。そして、自分が感じたことをどれだけ吟味しながら言葉にしているかを知ると、言葉に対する姿勢も変わってくることでしょう。③ 『カーテンコール!』(加納朋子著、新潮文庫)感性が豊かだと、人の気持ちを感じ取るだけでなく、その奥にもう一歩踏み込むことができます。たとえば、お客様にオレンジ色のスカーフをおすすめしたとしましょう。顔映りもよく、とてもよくお似合いです。それなのに、「私には似合わないわ」と浮かない顔。あなたならどうしますか?お客様には、オレンジ色にまつわる嫌な思い出があるのかもしれません。触れないほうがいい場合もありますが、もしかしたら、子どもの頃に似合わないと言われて、そう思い込んでいるだけかもしれません。それなら、間違った思い込みを捨てて、心を軽くするためのお手伝いができるでしょう。そんなふうに人の心を知って判断できるようになるには、小説を読むことをおすすめします。中でも、人の心がどのように行動に影響を与えるのか、実感できる作品がいいでしょう。本書に登場するのは、とある学園の「落ちこぼれ」の生徒たち。会話下手、寝坊魔、病弱、食いしん坊に拒食症……とそれぞれ問題を抱えているのですが、彼女たちが学業不振に陥ったのには、意外な原因がありました。日常に潜む謎を解き明かすミステリを通して、人の心の奥深さに触れることができますよ。文:寺田真理子(日本読書療法学会会長)長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。多数の外資系企業での通訳を経て、現在は執筆・翻訳・講演活動。読書によってうつから回復した経験を体系化して日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。主著『心と体がラクになる読書セラピー』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)は中国語版、タイ語版も発売され海外でも読者を獲得。著書に『古典の効能』(雷鳥社)など。『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと』(Bricolage)をはじめ認知症関連の訳書多数。日本読書療法学会:https://bibliotherapy.jp/