第2回 ひとことでも差がつく?! 言いにくい断りの敬語お客様からなにか依頼や要望があった場合に断ったり、社内の誘いを断ったりと、どちらの場合も受けることは楽でも、いざ断るというのはなかなか言いにくいものですね。ほんとうは引き受けたいのだけれど事情があったりとさまざまですが、断り方次第では今回がだめでも次回また…と思ってもらえたりと、言い方もひとつで差が出てしまうこともあります。そのようなちょっと言いにくい断る場面での敬語、言い換え例を改めて見直してみましょう。セールスの電話などはっきり断ることが必要な場面もありますが、ビジネスの場面での断りとなりますと、これからのお付き合いにも影響するものです。断らなければいけないことには変わりありませんが、あまりにキツイ言い方にも注意が必要ですね。 ×すぐには返事できません、上司に聞いてみませんと【言い換え例】すぐには判断いたしかねます/私の一存では判断いたしかねますので、上司に確認いたしましてご返事申し上げます…など。×できません【言い換え例】お引き受けいたしかねます/お引き受けできそうにございません…など。 言葉の響きを和らげるクッション言葉を上手に使って相手に何かを頼んだり、相手の意向を尋ねたりする場合に「今よろしいでしょうか」「ご都合がよろしければ」などの表現が用いられますが、断りの場面でも同じことが言えます。このような場面でも、いきなり自分の意見を切り出すのではなく、場面に合わせて心くばりを伝えるひと言を添えてから本題に移ると言葉の響きがやわらかくなり、こちらの意向も伝えやすくなります。俗に「クッション言葉」とも呼ばれていますが、やむを得ず断らなければならないような場面でのひと言例を見てみましょう。 断る場面での 言いにくいことを切り出すクッション言葉のいろいろ相手の要望に応えられないような場合 こちらの事情をわかってもらいたい場合「まことに心苦しい限りでございますが」「〇〇の事情がございまして…心ならずもお断りするほかなく」「なにとぞ悪しからず」「まことに不本意ながら」「どうか事情をお汲み取りいただきたく」「なにとぞ事情ご了察のうえ」「なにとぞ窮状をご賢察のうえ」…など。社内などでの誘いを断る場合「せっかくの(うれしい/ありがたい)お話し/お誘いを申し訳ございません」「お忙しいところメールをいただきましたのに」「私にまでお話しいただきましたのに」「ほんとうならば喜んで参加したい気持ちでございますが」「たまたま〇〇が入ってしまっておりまして」…など。次回につながるひと言「これに懲りずに、どうかまた次回お誘いいただけたらうれしく/ありがたく存じます」「また機会がございましたら、どうかよろしくお願いいたします」「このたびはお誘いいただきありがとうございました」…など。相手の希望、要望に応えられないことを述べるような場合、「悪いな」とか「ほんとうは引き受けたいのに」という気持ちもあるものですね。決して流暢な言葉ばかりが良いというのではありませんが、やはりそれなりの礼を欠かない言葉で、かつ、やわらかくこちらの気持ちも伝えたいものです。言いにくいことを伝えるこのような場面で、いきなり切り出さずひと言言葉を添えることは、言葉全体の響きがやわらかくなるばかりでなく、相手の気持ちもほぐれ、こちらの意向も伝えやすくなるという効果があります。相手の気持ちを壊さないためにも、ぜひ心くばりのひと言を添えてうまく表現してみましょう。文: 井上明美氏(ビジネスマナー・敬語講師)国語学者、故金田一春彦氏の元秘書。言葉の使い方や敬語の講師として、企業・学校などの教育研修の場で講義・指導を行う。長年の秘書経験にもとづく、心くばりに重きを置いた実践的な指導内容には定評があり、話し方のほか、手紙の書き方に関する講演や執筆も多い。著書に『敬語使いこなしパーフェクトマニュアル』『最新 手紙・メールのマナーQ&A事典』(ともに小学館電子版)『一生使える「敬語の基本」が身につく本』(大和出版)『お客様に好かれる正しい日本語・敬語の使い方』(近代セールス社)など多数。ウェブサイト「All About」では「手紙の書き方」のガイドを務めている。