第1回 よく聞く二重敬語ってホントはなに?どちらが正しいの?!この原稿を書いているのは5月ですが、 5月といいますと、新緑に初夏の風も快いころですが、もうしばらくしますと来月には衣替えですね。時季に合わせて着るものを調節したりと何事も適度、程の良さというのがいいものです。それは言葉遣いにも同じことが言えます。過剰な厚着の敬語は「二重敬語」と呼ばれますが、では、改めて二重敬語とはどのような言葉のことを指すのでしょうか。二重敬語の例と適切な言い換えの例を合わせて今一度見直してみましょう。 「二重敬語」とは1「先ほどおっしゃられましたが」2「手紙をお書きになられる」 この傍線の部分が「二重敬語」と言われるものです。1は「おっしゃる」かまたは「言われる」の、その二つのどちらかの言い方になるべきところを、二つが重なって「おっしゃる」+「~れる(言われる)」としてしまった誤りです。2も「お書きになる」か「書かれる」となるところを、「お書きになる」+「書かれる」とした誤りです。つまり、二重敬語とは、敬語の使われている数を言うのではなく、1を例に言いますと次のようになります。1「先ほどおっしゃられましたが」の「おっしゃる」を基本に戻しますと「言う」ですね。「言う」の尊敬語は「おっしゃる」→ その言葉専用の(ここでは「言う」専用の)尊敬語を用いた形「言われる」 → 尊敬語の成分の「れる」(または「られる」)を用いた形このように、「言う」を尊敬語にする場合、「おっしゃる」か「言われる」のどちらか一つの尊敬語で表現すべきところを、「おっしゃる」+「~れる」というように、ひとつの言葉に対して敬語の形を二重に用いてしまう誤りのことを「二重敬語」と言います。このような二重敬語を使ってしまうのは、相手の行為に対して丁寧に述べたいという気持ちからとも思われその気持ちは理解できますし、言われてもそう不愉快に感じるという類のものではないかもしれません。しかし、二重敬語というものを理解していませんと、過剰なおかしな言い方に気付かず、同じ誤りを何度も繰り返してしまうことにもなりかねません。「二重敬語」をいくつも使ってしまっている例「先ほどお店にいらっしゃられまして、プレゼント用にとおっしゃられて お買い上げくださり 1時間ほど前にお帰りになられました」こうなりますと、一つぐらいはそう気にならないという人でも、いくつも誤りが続きますとやはりおかしな言葉に響いてしまうでしょう。このような誤りを防ぐためにも、よくおかしやすい「読む」「見る」などの動作の二重敬語の誤用例を見てみましょう。 二重敬語とは敬語の数ではない、二重敬語の意味を取り違えないで!先の「手紙をお書きになられる」は二重敬語ですが、次のような例は二重敬語と呼ぶものではありません。「ポスターをお書きくださる」「お書きくださる」は、「書いて くれる」で、「書いて」と「くれる」そのひとつひとつがそれぞれ敬語になった形なので、二重敬語などと呼ぶものではなく正しい表現です。ここを間違えないようにしましょう。また、「二重敬語」でも慣習として定着しているものもあります。 二重敬語でも昔から使われていて問題のないもの食べるの尊敬語「お召し上がりになる」を例に言いますと、「召し上がる」自体が尊敬語になるので二重敬語になりますが、習慣として定着していて問題のないものです。ほかにもまだいくつかありますが、2つほど挙げますと、同じ食べる関係では「お召し上がりくださる」。また、訪問の際によく用いられる「お伺いする」なども定着していて問題のない例です。よく耳にする「二重敬語」も、「二重敬語」の意味の取り違えや、習慣として昔から使われ間違いではないものなど、誤解のないように上手く用いたいものですね。文: 井上明美氏(ビジネスマナー・敬語講師)国語学者、故金田一春彦氏の元秘書。言葉の使い方や敬語の講師として、企業・学校などの教育研修の場で講義・指導を行う。長年の秘書経験にもとづく、心くばりに重きを置いた実践的な指導内容には定評があり、話し方のほか、手紙の書き方に関する講演や執筆も多い。著書に『敬語使いこなしパーフェクトマニュアル』『最新 手紙・メールのマナーQ&A事典』(ともに小学館電子版)『一生使える「敬語の基本」が身につく本』(大和出版)『お客様に好かれる正しい日本語・敬語の使い方』(近代セールス社)など多数。ウェブサイト「All About」では「手紙の書き方」のガイドを務めている。