「この商品は塩味ですが、よろしいですか?」ふいにレジで店員さんに話しかけられました。それはKALDIでいくつかの買い物をして、清算をしようとしていた時のことです。その商品はスナックだったのですが、味に種類があるとは知りませんでした。聞いてみると、プレーンなものもあるそうです。それではということで商品をプレーンな物に変えてもらったのですが、問いかけられなければそのまま塩味を買っていたことでしょう。何しろほかの味があるなんて知らなかったのですから。ただただレジで支払うことしか頭になかった私に、その店員さんは特別な体験を提供してくれました。ちょうど『なんでもいいや』と思って手に取った商品を「こちらにも違うものがありますよ」と教えてもらったものの方が自分の好みだった時のような。目指していたものを買う、頭にあるものを買う、目の前のものを買う、手にしたものを買う、私達の買い物ではありふれた行動です。多くの買い物の中で「掘り出し物に出会う」「心を揺さぶられるものに出会う」そんな体験は貴重な体験として心に残り、人に話したくなります。私は色々な企業の社員に研修しています。これまで、その研修を受けた受講生から「今までで一番素晴らしい研修でした」「また別の機会に先生に教えて欲しい」と何度も言われた経験があります。大学で60人近くの学生を教えていても「先生の授業はとても良かったです」とわざわざ言いに来てくれる学生がいます。私としては研修や授業を通して、その人にとって得難い体験を提供できたんだなと満ち足りた思いになる瞬間です。話を販売店に戻しましょう。売上を上げる販売員とは、どんな人でしょう?お客様から見て「あの人から買いたい」と思われる人ではないでしょうか。優秀な販売員とはどんな人なのか、その特徴を何人かに聞いてみたところ、五月雨式にこんな特徴が浮かび上がってきました。・お客様が求めるものを察することのできる力を持っている。・相手の思いをくみ取ることができる力を持っている人・お客様に寄り添える・お客様が興味のあることに関しての理解が出来る・お客様の感情と同じ位置に立てる(同じ位置にいることが出来る)・お客様の表情やしぐさを見て、変化に気づくことが出来るいくつも並んだそれぞれの特徴って、どれも似てませんか?「相手をよく見て、相手の気持ちに気づいて寄り添ってあげる」いずれもそんなことが書いてあるような気がします。もし買い物に行って、もともと考えていたものに加えて、お店の人が自分のことをよく考えて、自分にとって良いもの、必要なものをすすめてくれたら、それは他では得られない体験となるのではないでしょうか。一期一会という言葉を知っている人も多いでしょう。一度の出会いが最初で最後の出会いになるかも知れない。だからその出会いを大事にしようという意味です。これを良く調べてみると、茶道家の千利休が茶会においては「一期に一度の会と思って亭主を畏敬すべし」と述べたことに由来するようです。いかがですか?この千利休の言葉、最初に私に問いかけてくれた店員さんの気持ちに通じると思いませんか。相手を大切な人だと思って関心を持って問いかける。その問いから相手の心に届く提案を考え抜いて、その結果その人にとって得難い体験を提供することができる。そんな接客をするためのコツについては、次回詳しくお話ししたいと思います。文:中西真人氏(M&R Consulting代表)1960年生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。 自動車メーカー、流通業、外資系コンサルティング会社を経て、1996年にM&R CONSULTING代表として独立。独立後は、顧客企業の課題の発見から解決までのプロセスを顧客と共有しながら進めるサービスが好評で、様々な業界の大手企業を顧客に持ち、信頼も厚い。また講演・研修では、「なるほど」とうなずける裏付けのある内容と論理的な解説あり、工夫されたワークにより、明日から即実戦に活かせると評判も高い。JASPAでは、トレーニング動画「タイムマネジメントー自分時間の創り方ー」で講師も務めている。<主な著書>『実務で役立つプロジェクトファシリテー ション』 (翔泳社)『プロジェクト・マネジメント』 (かんき出版/共著)『思いどおりにお仕事を進める対人関係トレーニング』 (かんき出版)