社会人教育の前に子育ての心構えを持つ人材育成では、ティーチングとコーチングという一般的な考え方があります。ティーチングとは文字通り教えることが中心で、コーチングは若手社員に自ら考えさせることで能動的な行動を引き出すことです。最初はティーチングで丁寧に教えていきますが、徐々にコーチングによって知識、スキル、経験値を高めながら最終的には自分で考えて行動できることを目指します。しかし、最近は社会人としての一般常識が無く、基本行動もできない若手が増えており、今までのティーチングとコーチングだけでは十分に対応できず、現場の上司や先輩を悩ませるという事態が起こっています。例えば、ペンの持ち方がおかしいのでお客さんの前に出せない、余裕を持った事前行動ができずに指定時間に必ず遅れる、睡眠不足によって寝坊、遅刻をする、お客様や取引先にタメ口や若者言葉を平気で使ってしまう、上司や先輩を自分の方に呼びつけてしまう等が挙げられます。心当たりのある方も多いのではないでしょうか。これらは全て日常習慣や生活管理、あるいは人としての常識の問題であり、社会人の仕事以前の事柄であり、本来は家庭や学校生活の中で教育されるべきです。しかし、最近は口うるさくしつける大人が減ったために、以前は当たり前だったことが全く身につかないまま職場に到達してしまうのです。こうした状況に対応するためには、ティーチングとコーチングの前に新たに「子育て期」という段階を設ける必要があります。つまり、親になったつもりで子どもを育てるように一つひとつ丁寧に教えていきます。粘り強い気持ちと丁寧な言葉で指導するこの子育て期間中には、次の3大禁止事項を肝に銘じて割り切って取り組んでください。「①どんなに当たり前のことができなくても決して驚かない」「②一度や二度の指導でできるようにならなくても決して呆れない」「③そんなことまでやらなくてはならない現実を決して嘆かない」です。しばらくは毎日同じことを言い続けることになるかもしれません。しかし、この期間中は何度でも教え続けるという割り切りも持つようにしてください。そうすれば、上司や先輩が悩むことも苛立つことも無くなります。最初の段階で常識や基本をしっかりと確立しておかないと、ゆくゆくは大きなトラブルやクレームを引き起こしてしまいますから、あとで苦労しないためにも腰を据えて取り組むようにしてください。また、教える時には部下、後輩であっても丁寧語を使いましょう。たまに勘違いをする上司や先輩がいますが、お客様に使うような尊敬語や謙譲語ではありません。あくまで「です」「ます」「してください」「しましょう」という丁寧な言葉づかいです。例えば、「これ数字が間違えてるよ!注意されるの3回目でしょ!何度も同じ事を言われないように自分でもしっかりチェックしなさい!」と注意するところを「これ数字が間違えています。これで注意されるのは3回目です。何度も同じ事を言われないように自分でもしっかりチェックしてください。徹底できますか?」という言い方にします。呼びかける時も「鈴木くん」「斉藤さん」のように必ず名前で声を掛けるようにします。感情と共に言葉を投げつけても若手の状況が変わるわけではありません。このように丁寧語を使って指導することでまずハラスメントに陥ることが無くなります。また、露骨な上下関係が解消されることになり、若手社員を一人の大人として認めることに繋がり、職場の品位が保たれるようになります。ぜひ今の時代に合った教え方、注意の仕方を実践してみてください。文:伊藤誠一郎(株式会社ナレッジステーション 代表取締役/総合型選抜指導塾 リコット代表)5年間にわたり医療情報システム、医療コンサルティング分野において提案営業、プロジェクトマネジメントの業務に従事した後、2009年に独立し、プレゼンテーション、提案力向上をテーマに講師活動を開始。その後、ロジカルシンキング、職場コミュニケーション、組織マネジメントなどテーマを広げ、新入社員から中堅社員、管理職まで延べ300社、2万人以上に研修、講演、セミナーを実施。 2012年に総合型選抜塾リコット(旧東京AO入試対策塾)を設立し、高校3年生を対象に志望理由書の書き方、プレゼン発表、面接、小論文のマンツーマン指導を開始。講師自ら正解の一部を提示しながら徹底的に肯定と承認を繰り返す独自の指導法で合格率93%を達成。現在は、多くの若者と接する氷河期世代という二刀流講師としてZ世代と言われる若手社員育成と彼らを育てる上司、先輩のための企業研修、講演を行っている。受講者からは「想定外の気づきの連続だった」「脱昭和の必要性を強く感じた」「今までの言動を根本から改めなければいけない」といった声が多く寄せられている。