なぜ今、ハードクレームが増えているのか?こんにちは。 顧客心理コンサルタントの大野亜希子です。私はこれまでアパレル企業、商業施設、ラグジュアリーブランド、自動車ディーラー、美容サロン、銀行など、さまざまな業界で接客・販売人材の育成に携わってきました。現在は、心理学や顧客行動学をベースに、「顧客と売上げを作れる人は何が違うのか」というテーマを心理学の視点からお伝えし、企業の人材育成や売上げアップの支援を行っています。今回から2回にわたり、「ハードクレーム」について考えていきたいと思います。クレーム対応というと、「どう謝れば良いのか」「どう説明すれば納得してもらえるのか」という対応方法に目が向きがちです。しかし私は、クレーム対応を学ぶ前に、「なぜそのお客様は怒っているのか」を理解することが大切だと考えています。なぜなら、人の行動には必ず理由があるからです。その背景にある心理を理解できるようになると、クレーム発生後の対応だけでなく、クレームそのものを未然に防ぐヒントも見えてきます。今回は顧客心理の視点から、最近増えているハードクレームの背景について考えてみたいと思います。最近のクレームは何が違うのか?現場の皆さんは、こんな経験もしくはそんな経験をしたスタッフがいたのを目にした、近隣のお店がそのような対応に困っていたのを見たなんていう経験はありませんか?「SNSに投稿するからね」「動画を回しているから」「本社に連絡する」「責任者を出してください」「納得するまで帰りません」もちろん、商品不良や接客ミスに対するご指摘は昔からありました。しかし近年増えているのは、問題解決だけが目的ではないクレームです。説明しても納得されない。謝罪しても怒りが収まらない。対応が長時間化する。販売員自身が精神的に疲弊してしまう。こうしたケースが、さまざまな業界で増えています。では、なぜ今、このようなクレームが増えているのでしょうか。その背景の一つに、SNSの普及があります。SNS時代が変えたお客様心理10年前、情報発信ができる人は限られていました。テレビ、新聞、雑誌、そして一部の著名人やインフルエンサーなど、発信する側と受け取る側が比較的はっきり分かれていた時代です。しかし現在はどうでしょうか。Instagram、TikTok、X、YouTubeなどを通じて、誰もが気軽に自分の意見を発信できる時代になりました。例えば、「今日行ったカフェが素敵だった」「買った洋服が気に入った」という投稿もあれば、「お店の対応が残念だった」「こんな接客をされた」という体験も簡単に発信できます。そして、その投稿に対して、「それはひどいですね」「私も同じ経験があります」と共感が集まることも珍しくありません。つまり今は、誰もが発信者になれる時代なのです。そして、この変化はお客様の心理にも大きな影響を与えています。人は「正しさ」より「分かってほしい」を求めている心理学では、人には「承認欲求」があると言われています。簡単に言えば、「自分を認めてほしい」「自分の話を聞いてほしい」「自分を大切に扱ってほしい」という欲求です。SNSは、この承認欲求を満たしやすい環境でもあります。投稿すると「いいね」が付く。コメントがもらえる。共感してもらえる。こうした経験を日常的に繰り返すことで、私たちは以前よりも、「自分の気持ちを理解してほしい」という意識を持ちやすくなっています。そのためクレームも、商品やサービスへの不満だけでなく、「私の気持ちを分かってくれなかった」「軽く扱われた」「ちゃんと話を聞いてくれなかった」という感情的な不満が増えているのです。例えばレストランで注文を間違えられた場合。以前であれば、「違いますよ」と伝えて終わったかもしれません。しかし今は、「どう対応されたか」「どんな気持ちになったか」ということまで含めて評価される時代です。つまり、お客様は商品やサービスだけではなく、『自分がどう扱われたか』を見ているのです。怒りの奥には別の感情があるもう一つ知っておいていただきたいことがあります。心理学では、怒りは「二次感情」と言われています。つまり、怒りの奥には別の感情が隠れているということです。例えば、・期待していたのに裏切られた・不安だった・悲しかった・損をした気持ちになった・分かってもらえなかったこうした感情が積み重なり、最後に怒りとして表面化します。販売員から見ると、「そこまで怒ること?」と思うようなケースでも、お客様本人は別の感情によって傷ついている場合があります。だからこそ、正論だけでは解決しないことがあるのです。クレームを防ぐ第一歩ここまで読んでいただき、「ではどうすれば良いの?」と思われた方もいるかもしれません。実はクレーム対応で最も重要なのは、クレームが発生した後ではなく、発生する前です。お客様は何を期待しているのか。何を不安に感じているのか。何を大切にしているのか。その心理を理解しようとすることが、クレーム予防の第一歩になります。相手の言葉だけではなく、その背景にある感情を見る。それができるようになると、接客は大きく変わります。次回は、実際にハードクレームが発生した際、販売員自身が振り回されないための対応のヒントについてお伝えします。「どこまで対応するべきなのか」「店長へ引き継ぐタイミングは?」「ハードクレームとカスタマーハラスメントの違いは?」そんな現場で役立つ考え方を一緒に学んでいきたいと思います。文:大野亜希子(顧客心理コンサルタント)大手アパレル企業にて社内売上No.1を3年間キープし、店舗マネージャーとして売上・顧客維持数トップ、接客指導責任者を歴任。その頃より、売れる人と売れない人の違いや顧客心理・購買行動を徹底的に分析し、成果につながる接客・営業プロセスを体系化。自身も平均客単価30倍、新規顧客獲得数店内1位など数々の実績を残す。現在は営業支援会社の代表として、そのメソッドを各業界に最適化し、アパレル、自動車販売、美容サロンなど幅広い業種で売上向上・人材育成を支援。「成果が出るまで伴走」、「現場で再現しやすい」と評判の研修では、接遇マナーの一歩先を行く、顧客心理を捉えた実践的なアプローチで成果を生み出している。