第3回 いつでも「ありがとう」ばかりに。こんなときなんと言えばいい?!お礼の言葉 言い換えバリエーション人と会っての会話や手紙・メールなど、相手の方にお礼を言う場面というのは、非常に多いものですね。お礼ですから何度言っても悪いことはありませんが、話し言葉ではそう気にならなくても、メールなどの書き言葉となりますと、気になるというお声もよく耳にします。また、言葉自体は正しくても、相手の方との関係によっては、あまりに儀礼的な文章も硬すぎる印象を与えることもあります。そんなよく使う「ありがとうございます」などのお礼の言葉の言い換えを、この機会にちょっと見直してみましょう。 ■何度もやりとりをしているなど、相手や場面によってはやや儀礼的すぎる印象を与える例貴社ますますご隆昌の趣、大慶至極に存じます。平素は格別なるご愛顧賜わり、厚く御礼申し上げます。〇〇に対しましてのご厚情まことにありがたく/ご助言を賜わり/ご高配にあずかり深謝申し上げます。 ■言葉はやわらかくても「ありがとう」ばかりが続いてしまう例いつもお世話になりましてありがとうございます。先日の〇〇では、ありがとうございました。○○様、皆様からのアドバイスで、会場に来たお客様からもたいへん喜ばれました。ほんとうにありがとうございました。 やや極端かもしれませんが、このようなメールも案外よく目にするものです。これらは、企業の人事・挨拶など儀礼的な文書や改まった場面では一般的に使われるものですし、決して間違いとか悪いとかいう類のものではありません。また、手紙だけでなくメールでも書き出しの定型文に設定していたりとやむを得ない点や、男性は女性よりも漢語表現を用いることが多いなどのこともあるでしょう。しかし、昨日会ったばかりだったり、せっかく親しくなれたのにいつでも定型文というのもなんだか不自然ですし、読んだ印象もちょっとさみしいものです。「ありがとうございました」もきちんとお礼の言葉ですし、一度しか使えないわけではありませんが、1行目、2行目と間をおかず続きますとやはり気になるということもあるものです。では、そのような点に注意しながら、お礼の気持ちをきちんと届ける言い換え言葉を考えてみましょう。■お礼の言葉の言い換え例いつもお世話になっております。先日の〇〇では、お力添えいただきまして①ありがとうございました。お陰様でご来場の方々からのアンケートもたいへん好評でこれもみな〇〇様はじめ、皆様のおかげと改めて②感謝申し上げます。 ①の「ありがとうございました」は、そのまま使えますし、または「心より御礼申し上げます」などと言い換えることもできます。②の「感謝申し上げます」も、こちらもそのままでも使えますが、「改めて」と合わせて使われることも多いですね。「改めて」とは、そのように・再度・または、思えば今さらのように感じる・事新しく感じるというような意味をもちます。振り返ってみて本当にありがたかった、昨日会ってお礼を申し上げたけれど、再度メールや手紙で「改めて」という場合もありますね。ではそのような点に重きを置きながら、「お礼」の言い換え例をいくつか挙げてみましょう。「ありがとう」の気持ちを伝えるお礼の言い換えバリエーション「○○たいへんありがたく存じます」「…ありがたくお礼の申し上げようもございません」「お礼の言葉も見つからないほどでございます」「ひとえに○○様のおかげと感謝の気持ちで一杯です」「心より御礼申し上げます」…など。お礼の言葉は礼儀ももちろん大切ですが、常套句ばかりになってしまってはその気持ちも伝わりにくくなってしまいます。何かをいただいたお礼ならば、品物に対するひと言や、お世話になったお礼ならば、その事柄や相手の方への感謝をこめたり…というように、適度な礼儀を大切にしつつ、決まり文句ばかりにならない、心からの言葉を伝えるそんなやわらかな心も面も大事にしたいですね。 文: 井上明美氏(ビジネスマナー・敬語講師)国語学者、故金田一春彦氏の元秘書。言葉の使い方や敬語の講師として、企業・学校などの教育研修の場で講義・指導を行う。長年の秘書経験にもとづく、心くばりに重きを置いた実践的な指導内容には定評があり、話し方のほか、手紙の書き方に関する講演や執筆も多い。著書に『敬語使いこなしパーフェクトマニュアル』『最新 手紙・メールのマナーQ&A事典』(ともに小学館電子版)『一生使える「敬語の基本」が身につく本』(大和出版)『お客様に好かれる正しい日本語・敬語の使い方』(近代セールス社)など多数。ウェブサイト「All About」では「手紙の書き方」のガイドを務めている。