人をひきつける人には、「魅力的な声」の 持ち主が多いということに思い当たる方も多いのではないでしょうか? 特にお客様とお話しする機会のある職業の方には、とても気になることですね! 長いキャリアで培った経験をより効果的にお客様へ伝えるために、年齢に負けない素敵な声のつくり方を声のアンチエイジング研究家の𡈽井里美さんに教えていただきました。あるとき、道端のマルシェがとてもにぎわっているのが目に入りました。どうやら若い男性が野菜を売っているようです。その声がなんとも元気が良くて、明るくて、通りかかる人達は中にどんどん吸い込まれていきます。エネルギーに満ちたその声の持ち主のお顔が見たくなって入ってみると、なんと50歳を超えた男性で、驚いてしまいました。背すじも首もすっと伸びたその人は、イキイキとした表情でお客様と会話を交わしています。若々しい明るい声は人を惹きつけることができますね。とはいえ、なにげなく録った動画の中の自分の声が、思っていたより老け込んでいてがっかりした経験は皆様にもあるのではないでしょうか。実際、声は老けます。年を重ねた声の変化としては、声が嗄れる、息が足りなくてエネルギーが弱い、滑舌があいまいになる、などがあります。そして音の高さに至っては、女性の場合20代と比べて更年期まっただ中の50歳ころになると音階で5度ほど下がる、といわれています。いかがですか?どれか心当たりはありますか?年齢に伴う変化に適応してさらに魅力的な声にアップデートするために、すぐできる基本的な3つのポイントをお伝えします。【その1 呼吸を深く】腹式呼吸という言葉は聞いたことあるでしょうか。これ、アナウンサーや俳優だけのものではありません。息が細くなってエネルギーが弱い声に活力を足すには、腹式呼吸が役立ちます。簡単に腹式呼吸のコツがつかめる練習をお伝えします。かまどに火をおこすイメージで、手を竹筒の形にして息を吹き込んでみてください。ほら、おなかがへこみますよね。そして次の瞬間には、自然に鼻から息が入っておなかがふくらみます。たっぷりの息を吸って吐けているわけです。これが良い練習になります。繰り返すうちに、リラックスして眠気が襲ってくるようなら腹式呼吸ができている証拠です。要領をつかめたら、お仕事中のお客様との会話でこの呼吸を使ってみてください。吸ったときに肩が上がらないように気を付けてくださいね。息が深いとエネルギーも加えられますし、感情豊かな表現ができて、落ち着きを感じてもらえる深みのある声になりますよ。【その2 声帯を鍛える】音階で言うと5度も下がってしまうとお伝えしましたが、一度下がってしまった音を高くするのはなかなか難しいです。でも、低い声って信頼感ありますよね?むしろ女性が仕事をするには吉と働きます。ラグジュアリーな売り場には、信頼感のある落ち着いた声が似合います。そこで、声を高くするよりは、“つや”のある声を目指すのはいかがでしょうか。そのためには、息をたっぷり使ってたくさんおしゃべりをしましょう。一人暮らしのサラリーマンが土日に誰とも話さないで月曜に出社すると、声がかすれていることがあります。プチ老化ですね。おしゃべりをすることは、声帯を若々しく保ってくれます。というのも、声帯の内側は筋肉でできていますので、声を出すことで筋トレになるんです。あまり声を出さなかった日には、新聞やお好きな本の1ページを声に出して読んでみるといいでしょう。水分をたっぷりとることを忘れずに。【その3 滑舌を鍛える】年を重ねると、発音があいまいになりやすいです。特に子音が「K」の音、つまりカキクケコがゆるくなりがち。美しい「K」の音のためには舌の筋肉を鍛えることをお勧めします。舌を歯茎と唇の間に差し入れて、上下にぐるぐる回してみてください。右回し左回しの両方です。最初は10回ぐらいでとても疲れると思いますが、慣れると早くたくさん回せるようになります。発音の練習は口や顎、舌を良く動かすので、副産物として表情筋が鍛えられます。ニュースを読むアナウンサーの顔はたるみにくいって知ってますか?発音の正確さを期すために顔を思いっきり動かすからなんです。一音ずつを大切に正確に発音することを、今日から心がけてみましょう。ところで滑舌については、若い世代だから心配いらない、ということはありません。20代くらいの方で、母音が別の音に変わってしまう方を時折見かけます。「ドアが」を「ダアが」という感じです。人気のユーチューバーでも、そんな話し方をする人がいますが、とても甘ったれたこどもっぽい印象になります。母音を正しい音で発音できているか、ご自身で確認してみてください。大人としての信頼と品の良さを感じさせる話し方のために、滑舌を鍛えて発音を意識することをお勧めします。呼吸や滑舌の練習をしていると、姿勢に気を付けたり顔の表情筋をよく使うようになります。声のアンチエイジングがきっかけで見た目年齢も若くなるかもしれませんよ。文:𡈽井 里美(声のアンチエイジング研究家・東京YMCA国際ホテル専門学校講師・フリーアナウンサー)富山県出身。3年のホテル会社勤めの後、新潟放送にアナウンサーとして入社し、数多くのテレビ・ラジオ番組で活躍。フリーアナウンサー転向後は、NHK・文化放送・ラジオ日本の生ワイドの帯番組でメインパーソナリティを務め、気さくで親しみやすい語り口で人気を得る。25年間のラジオ番組で培った「声だけで表現する力」を使って、声を切り口にしたコミュニケーション研修を開発し、好評を得る。これまでおよそ10,000人に「声の力」を伝えてきた。36歳で出産した後、声の“おばさん化”に悩まされ、仕事がすべてなくなってしまうかもという危機に直面。絶望の中、必死にボイトレ・声楽・医学などあらゆる面から独自に声を研究し、ついに、自らの声を元に戻すことに成功した。その独自メソッドを『声のアンチエイジング』と名付け、声の老化に悩む女性のためのセミナーを開催すると、「声が見違えるほど通るようになった」「滑舌が良くなって顔のエクササイズにもなり声も顔も若返った」と大反響を得る。その後アンチエイジングクリニックスコールと東京工芸大学との共同研究を通して(のちに抗加齢医学会で発表)、声のトレーニングは、口の健康を維持しておいしく食べることを助け、サルコペニアやロコモティブシンドローム予防になり、健康維持に役立つことを確信する。第18回日本抗加齢医学会総会にて「声のアンチエイジング教室~声と見た目のマイナス10歳チャレンジプログラム」で優秀演題受賞𡈽井里美サイト:https://doisatomi.com/