第八回目は、「家」という大きな買い物をする時に、背中を力強く押してくれた営業マンのお話です。この家を建ててから10年が経ちました。とても心豊かに暮らしています。そもそも土地を購入し家を建てるなど思ってもいなかった私たち家族。大手不動産会社のある営業マンとの出会いがなければ、今日のような快適な毎日はなかったと思うと本当に不思議です。当時、駅前のマンションに住んでいた私たち家族は、もう少し静かなところに住み替えようかと話していました。ただ、土地を購入するつもりは全くなく、いいところがあれば中古のマンションでも…と、ぼんやりと考えていました。ある日、家族で散歩の途中、不動産会社が張り出していた広告を見て急に思い立ち、飛び入りで話を聞きに行きました。その時応対してくれた彼は、丁寧に要望をヒアリングし、ひと通りの説明を行いましたが、あっさりとした態度で、その際は特にこれといった約束はしないままお店をあとにしました。数日後、「広告のマンションを見てみないか」とその彼より連絡があり、せっかくなので、と内見させてもらいました。正直、あまり前向きな印象を抱かなかった私たちは、当たり障りのない返答をして終わらせていたのですが、本音を伝えていないということを見抜いてか、彼は、主人が在宅していないであろう時間帯に私あてに連絡をしてきて「正直なところ奥様にとってはどうでしたか?」と、改めて感触を確かめてきました。初めは、決定権を持つのは私ではなく主人なのに、なぜ私に聞いてくるのだろう…と不思議に思ったのですが、土地・家の購入は女性の意思が大きく影響する、ということを考慮してあえて私に連絡したようでした。そして「お勧めの物件をポストに入れておくので見てみてください」と提案し、次の内見へと進んでいきました。しかし、2軒目も何となく違う印象で、内見後にその旨を伝えると「また違ったタイプでご覧いただきたいものがある」と、すでに次の提案を準備していました。そうして繰り返すうち、数軒目に見学した物件で感想を伝えると、彼は「条件を満たすにはリフォームをするのがいいかもしれない。ただ、それなら土地という選択肢はどうか。市場に出ていない○○様にピッタリのものがある。話だけ聞いてみないか。」と、考えてもいなかった大胆な提案をしてきました。私たちは、“土地”という選択肢はなかったため、とても驚きましたが、彼の顔をたてるつもりで見学に行きました。現地にいたその土地のオーナーは「彼に全てお任せしているんだ」と、全幅の信頼をおいている様子でした。私たちはそのオーナー含めて談笑し、その中で彼は「誰にでも紹介できる土地ではない。○○様だから」などその土地の魅力を伝えてくれましたが、私は冷やかしのようで申し訳なく思い、早くその場を立ち去りたい気持ちでいっぱいでした。しかし、彼は、その土地を少し気に入ってしまった主人の反応を見逃すことなく、主人への猛アプローチを開始。それ以降はその土地に家を建てる、という方向に話の舵をきり、マンションを勧めることはなくなりました。「家を建てた場合のイメージを見てみないか。」と展示場へアテンドし、その場に同席した建築の専門家から事細かに説明を受けたり、金額面での計画書を提示したり、ある時は「別の業者で建てた場合どうなるか、私の自宅を見にきませんか。」と自らの自宅を開示してくれるとまで言いました。そこまでしてもらっていいものか…と少し躊躇しながらご自宅へうかがうと、ご家族も迎えてくれて、ひと部屋ひと部屋を案内してくれました。「ここは僕の趣味の部屋なんです。」と、ギターを披露しながら「○○業者に頼むとこんな感じに家が建ちます。イメージはつかんでいただけましたか。」と笑顔で話しました。そして最後に「○○様のこだわりを叶えるなら既にあるものに手を加えるのではなく、何もないところに一から組み立てていくのが一番いいのではないか。」と、提案しました。私たちは、違うタイプのマンションの内見を繰り返すことで、自分たちでも気付いていなかった“こだわり”が徐々にあぶり出され、“一から建てる以外自分たちの希望を叶えることはできない”ということに気づかされたのです。彼は、清潔感があり、話し口調も穏やかで、自分のお客様だけでなく、道を尋ねにふらっと寄ったご老人や店舗のスタッフに対しても常に丁寧に接し、決して押しつけがましくなく、いつも私たちに選択権があるように思わせました。それと同時に「本音を伝えていない際には鋭く切り込む」「すべてをさらけ出してでも絶対に次の提案をする!」という静かな闘志が感じられ、次第に私たちは彼に信頼を寄せるようになりました。そして、実際にどんな風に家が建つのかイメージを持ちはじめた私たちは、土地の購入を真剣に考えるようになっていったのです。それから少し経ち、彼から「他に土地を検討している方が出てきた。もう一度見に行かないか。」と連絡を受け、改めて見学に出向きました。「ここなら緑も多く、2階をリビングにして緑地を借景にできる。日差しが暖かいでしょうね。」「お子さんとの生活が見えますか。」という言葉を聞き、生活のイメージと覚悟を持てた私たちは彼に購入することを伝えました。実際に家が建ち、暮らしてみて、自分たちの思うように組み立てることができたことで、とても快適な生活が送れています。まさか自分たちが土地を買うことになるとは夢にも思っていませんでしたが、今では「彼」に導いてもらったことに感謝し、毎年届く年賀状と暑中見舞いを拝見するたび、“土地や家を探している方がいたら彼を紹介したくなるのだろうな”と、思いを馳せています。