こんにちは。美鶴ヒューマンラボ代表の上田亜希子です。私は劇団四季をはじめ、俳優として約3,000回の舞台に立ってきました。現在は、俳優が培ってきた声・表情・姿勢・立ち居振る舞いなどの表現技術を生かし、企業研修や人材育成に携わっています。今回は、俳優としての経験から、販売員の皆さんがブランドの魅力をより豊かに届けるための「存在感」について考えてみたいと思います。言葉より先に伝わる「存在感」お客様がお店に入ってきたとき、最初に受け取るものは何でしょうか。商品でしょうか。 販売員の言葉でしょうか。実は、それよりも前に伝わっているものがあります。それは、販売員の「存在感」です。立ち方や表情、目線、歩き方。その人から漂う空気は、言葉を交わす前から、お客様にさまざまな印象を与えています。「なんとなく安心できそう」 「この人に相談してみたい」 「このお店は素敵だな」そう感じていただけるかどうかは、接客が始まる前の“ゼロ秒”から決まっているのかもしれません。舞台では、俳優が登場した瞬間から、「どのような人物なのか」を観客に伝えます。まだ一言も話していなくても、立ち方や歩き方、表情、目線、呼吸から、その人物の性格や生き方まで伝わっていきます。これは、販売のお仕事にも通じる部分があるように感じています。私が外から拝見していて感じるのは、販売員の皆さんが、商品をご案内するだけでなく、そのブランドが大切にしている美しさや価値観、商品に込められた物語まで、お客様に届けていらっしゃるということです。そのお姿は、私には、ブランドの世界観を立ち居振る舞いや言葉を通して表現する“俳優”のようにも映ります。では、その存在感を、さらに磨くにはどうしたらよいのでしょうか。まずは、「このブランドは、お客様にどのような気持ちを届けたいのだろう」と考えてみてください。上質さでしょうか。 華やかさでしょうか。安心感でしょうか。 それとも、新しい自分に出会う高揚感でしょうか。「理想の自分」を先に演じてみる届けたい世界観が見えてきたら、その世界観を体現する自分を、思い切って演じてみるのも一つの方法です。「自然体でいよう」 「自分らしく接客しよう」そう言われても、すぐには難しいと感じることがあります。そんなときは、無理に“ありのままの自分”だけで頑張らなくても大丈夫です。いつもは選ばない赤いネイルをしてみる。 普段よりも、少しゆっくり話してみる。 ブランドの世界観にふさわしい衣装や、自分に自信を与えてくれるアクセサリーを身にまとってみる。最初は、「少し自分らしくない」と感じるかもしれません。けれど、俳優が衣装を着た瞬間に、その役の立ち方や歩き方へ変わっていくように、身につけるものや振る舞いを変えることで、心にも変化が生まれることがあります。赤いネイルをした指先を見ると、いつもより堂々と商品を差し出せるかもしれません。ゆっくり話してみると、自分の声に落ち着きや説得力があることに気づくかもしれません。理想の自分を思わせる衣装をまとえば、自然と背筋が伸び、歩き方や目線まで変わっていくかもしれません。演じることは、自分を偽ることではありません。ブランドの世界観を借りながら、自分の内側に眠っていた品格や大胆さ、優しさ、華やかさを目覚めさせることです。理想の姿を先にまとうことで、「私には、こんな表情もあったんだ」 「こんなふうに堂々と振る舞うこともできるんだ」と、まだ出会っていなかった自分に出会うことがあります。存在感は「相手を想う気持ち」から生まれるそして、演じるときに大切なのは、形だけをまねることではありません。「目の前のお客様に、どのような時間を過ごしていただきたいか」を心に置くことです。安心してほしい。 心が華やいでほしい。 この商品を通して、新しい自分に出会ってほしい。その思いがあると、表情や声、立ち居振る舞いにも自然と温度が生まれます。上質さや落ち着きを伝えたいなら、動きを少しゆっくりにする。商品をお渡しするときや、お辞儀をするとき。動作の最後を一瞬だけ丁寧に止めてみる。それだけでも、落ち着きや品格が伝わりやすくなります。親しみや温かさを届けたいなら、お客様を見た瞬間に、心の中で「ようこそ」と語りかけてみてください。「来てくださってうれしい」そう思うことで、目元がやわらかくなり、言葉にも温度が宿ります。ブランドの世界観を演じることは、自分ではない誰かになることではありません。自分の中にある魅力を、その場にふさわしい形で表現することです。「今の私には難しい」と感じたら、まずは理想の自分を身にまとってみる。そうすることで、商品をご案内するという役割に加えて、ブランドの物語をお客様へ届ける表現者としての魅力が、より一層引き出されていくのではないでしょうか。あなたの内側に眠っていた魅力が目を覚ましたとき、その存在感はきっと、お客様の心にも届くはずです。文:上田 亜希子(美鶴ヒューマンラボ株式会社 代表取締役 CEO)19歳で劇団四季に入団『ライオンキング』ヒロイン・ナラ役など主要キャストとして出演。退団後は、劇団☆新感線『薔薇とサムライ2』など、30作品3,000ステージ以上のミュージカルを中心とした舞台に出演する。2023年に起業をし、役者人生を通じて学んできたことを通してより社会に貢献すべく、美鶴ヒューマンラボ株式会社を設立。https://mitsuru-lab.com/