コラムのタイトル「情熱と感動の仕事術」は、私がホテル支配人時代に初めて出版頂いた本のタイトルです。もう10年以上が経ちましたが、今でもこのタイトルで講演や研修依頼を頂きます。今回もこのタイトルでご依頼頂き、久しぶりに本や当時の掲載誌インタビューなどを読み返してみました。 そこには、今の私が忘れかけていた「接客業は自分も他人も幸せな気持ちになれる仕事」だという基本概念が描かれていました。 そんな本を出版するきっかけもホテルのお客様からのご縁でしたが、私がホテルを卒業し独立、神戸製鋼グループの上場企業の社外取締役に就任したきっかけも、ホテルをご利用頂いていた常連のお客様からの推薦でした。 私のキャリア形成は、接客業で培ったお客様とのご縁からと言っても過言ではありません。 接客業の奥深さは、経験した人にしかわからないかもしれませんが、ただ目の前のお客様と接するということだけではなく、顧客満足度を高めるという意味では様々な要素を満たす必要があります。 私は、それをアメリカの心理学者アブラム・マズローが提唱した「マズローの欲求五段階説」に合わせ、「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現の欲求」を5つの階層に分け、おもてなしを構築していきました。 基本的なマナーや接客スキルも重要ですが、それぞれ多様なお客様の要望を理解、想像し、承認から自己実現の欲求までを満たす場づくりや対応にはどのようなモノ、コト、しくみが必要なのか? お客様が「ここに来て良かった」「この商品を購入して良かった」「あなたに出会えて良かった」と思って頂ければ、それは心理学でいう「ミラー効果」となり、販売した人の幸せにも繋がります。 きれいごとに聞こえるかもしれませんが、顧客満足と継続には「お客様の幸せ」がそこになければ、「また訪れたい」「またこの人から買いたい」とう気持ちは生まれないからです。それが売り上げに繋がり、そこで働く人々のモチベーションへと「幸せの連鎖」に繋がります。 以前、講演用にと洋服を購入した際に販売員の方から顔色が明るく、華やかさもでるようにとスカーフも追加で勧められました。不器用な私は何枚か持つスカーフもあまり活用できていない旨をお話すると、その活用方法(結び方)などをいくつか教えてくれました。「でも、すぐ忘れちゃうから・・」と私が言うと、その販売員の方が「動画で撮って、見返されてはいかがですが?」と言って下さり、結局そのスカーフを購入しました。ただ品物を購入しただけではない、販売員の方からのご提案と会話によるコミュニケーションから、付加価値を感じた瞬間でした。 ホテル支配人時代には、クレームはお客様が「自分の存在を蔑ろにされた」と感じた瞬間から膨らんでいくことを実経験として学びました。人は誰しも自分を理解してもらいたい、大切にしてもらいたいという欲求があります。 コロナ禍で接客の形は大きく変化してきました。人と触れ合う機会が減少した今だからこそ、付加価値として求められる「ホスピタリティ・ブランディング」は、相手(お客様)を思いやる心+提案力。 誰かと出会い、ご縁が生まれる接客、販売の仕事はそこに「幸せの連鎖」が生まれることで互いに豊かになれる仕事であることを忘れないでいたいと思います。 著者:永末春美(ながすえ はるみ)兵庫県生まれ。1998年に神戸市内のホテル支配人に就任すると、若さと実績を基に、それまでにない新たなホテルづくりを実践。2007年には、神戸北野ホテル支配人に就任。ホテル支配人としての仕事に加え、コンサルティング業務も兼務。その後、㈱神鋼ソリューション社外取締役を経て、2010年に永末春美事務所設立。ホテル・旅館、ブライダルハウス、飲食店のコンサルティングやプロデュース等、「CS・ホスピタリティ」をキーワードとした人材育成・教育、コーポレートブランディング、商品開発など多面的な業務を行う。その他、神戸学院大学客員教授、「神戸マラソン」のブランドアドバイザリースタッフ就任をはじめ、神戸市未就労者支援事業の講師、内閣府・愛媛県「地域における女性活躍推進事業」での「人材活用コンシェルジュ」として中小企業の女性活躍推進に携わるなど、幅広く活躍。2017年には、山形県酒田市駅前再開発事業「光の湊プロジェクト」にて、ホテル開業コンサルタントとして携わり、2020年11月開業を実現。また現在は、2022年より兵庫県高砂市役所にて職員研修を担当。 また永末氏のノウハウやマインドを学びたいと講演・セミナーの依頼も多く、登壇は1,000回を超える。主な著書には、『ホテルの仕事で学んだ 感性を成果に繋げる法則』『組織再生はモチベーションから』『小さなホテルの支配人が書いた 情熱と感動の仕事術』『ヒューマンサービスの基礎知識』がある。