コロナ禍が明け、社会は再び動き出している。人々の価値観や行動様式は大きく変わり、消費行動にも新たな潮流が生まれている。 コロナ禍を契機に、ECサイトの利用が急速に拡大しただけでなく、遠隔での接客カウンセリングやインスタライブでの商品紹介など、バーチャルでの接客が浸透していった。リアル(対面)での接客に一旦戻ってはいるものの、今後はバーチャルな接客は減っていくのだろうか。今後は大きく進化したデジタルテクノロジーを活用した、リアルな接客とバーチャルな接客がシームレスに共存していくとおもわれる。リアルな接客にも、スマートミラーや顔認識システム等のデジタルテクノロジーを活用した接客が増えていく。現時点でもタブレット等を活用した接客が増えているが、購買データ分析や機械学習による顧客一人ひとりに合わせたパーソナルな接客が求められる。販売スタッフは人的コミュニケーションとデジタルスキルを組み合わせたハイブリッドな接客が必要とされるだろう。 そしてコロナ禍から進んでいた、モノ消費からコト消費、トキ消費へのシフトはさらに加速するだろう。情報収集や比較検討、購買までネットで完結する中、リアル店舗はこれまで以上にブランドの世界観を体験できる場、興味関心を喚起する場でなければならない。ワークショップやイベント、パーソナルカウンセリングなどの重要性がより高まる。ここで留意すべきはファンづくりである。リピーター(継続購入)からファン(ブランドに愛着を持ち指名買い)、さらには熱狂的ファンにいかに育てていくかである。熱狂的ファンはエバンジェリスト(伝播者)とも言われ、ブランド・商品サービスの良さを自発的に他の人達に伝播・推奨してくれる有難い存在である。その為には販売スタッフ自身が熱狂的ファンの心理・目線を理解し、ファンとの絆づくりを常に意識する必要がある。 今後の購買動向に大きな変化を与えるものとして、世代間ギャップがある。現在、消費の中心にいるのはX世代(1965~1980年生)、Y世代(1981~1994年生)であるが、そろそろZ世代(1995~2010年生)が社会人として消費の中心になってくる。Z世代の特徴はデジタルリテラシーが高い、環境問題や社会課題に関心が高い、個性や自己表現を重視すると言われる。彼ら彼女らは、アナログやマスメディア、流行を比較的重視する上の世代とは異なる価値観・消費行動を持つ。しばらくは異なる価値観・消費行動を持つ複数世代が購買層として混在することになり、企業側も複数のビジネスモデルや接客スタイルを同時提供する必要があるだろう。例えば世代毎に利用頻度の高いSNSは異なるが、一つに絞らずに複数運用せざるを得ない。 そして最後に近年の物価上昇や経済環境変化を受けて、経済格差とコストパフォーマンスの消費行動が一層顕著になるとおもわれる。節約志向とともに良質で長く使えるものへの価値観が高まるだけではなく、環境意識の高まりによりエシカル商品やリサイクル、企業のSDGs姿勢も購入決定要因の一つになる。つまり価格だけではなく、長期的かつ総合的なトータル価値で購買判断がされるだろう。販売スタッフも価格以外の価値をしっかり顧客に伝える必要がある。 今後の消費動向を踏まえると、これからの販売スタッフの役割は「顧客体験の提供者」へと進化するだろう。その為には自身が熱狂的ファンとしてブランド価値を伝導する役割を果たし、顧客一人ひとりに寄り添った人的コミュニケーションスキルが必要とされる。同時にデジタルスキルを使いこなすことも求められる。常に新しい挑戦を続けて、お客様との繋がりを大切にしてほしい。文:武庫川女子大学経営学部教授 高橋千枝子氏神戸大学経済学部卒業後、株式会社三和総合研究所(現:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)に入社。消費財・サービス分野のマーケティングリサーチや事業・ブランド戦略、M&A支援、事業化支援に従事し、特にヘルス&ビューティケア分野を得意とする。著書に、『高くても売れる!7つの法則』、『「肥満解消」マーケティング』、『図解 健康業界ハンドブック』などがある。商学博士、経営学修士(MBA)、中小企業診断士。