JASPAでは、JASPAセールスプロフェッショナル資格制度を設立し、日々お客様の感動を生み出せる販売員の育成に力を注いでいます。その資格試験では、販売員の接客を厳しく審査するミステリーショッピング調査員がいます。このシリーズコラムでは、ミステリーショッピング調査員が出会った心を動かされるプロフェッショナルの仕事について、ご紹介していきます。第二回目は、型にはまらずに思いを込めた言葉遣いでお客様と心を通わせた、アパレルブランドの販売員のお話です。 接客の仕事に携わる者にとって、美しい日本語や正しい言葉遣い、とりわけ敬語を正しく理解し的確に使えることは、その人自身の品格を上げるだけでなく、ブランドのクラス感までをもグレードアップさせる力になります。また「言葉遣い」と書くときには、「使う」ではなく「遣わす」という字を使います。つまり、相手の心に言葉を遣わすということです。その言葉にどんな思いや気持ちを乗せて相手の心に届けられるか。それが「言葉遣い」です。私は接客の調査を始めとして、今まで多くの販売員と接してきました。その中で強く印象に残っているのは、都内老舗百貨店に入っているアパレルブランドの販売員です。彼女は、本来ならば1つに束ねるべき長さの、背中位まである黒髪をハーフアップにしていて、接客は所謂「かっちりとした」というよりはフレンドリーな感じでした。こちらが思いもしないような洋服を提案し、試着室から出ると「あら。これだけでおしゃれさん♪」と声がけされたのを覚えています。言葉遣いは美しい日本語やかしこまった敬語という概念からは外れていて、見た感じも話した感じも、提案する洋服さえも、ふわっと独自の世界観をまとっているような、そんな販売員でした。とはいえ、独自の世界観を持つ販売員とは過去にも沢山接してきましたし、私の印象に残ったのは実はそのことではありません。その彼女の何が最も印象的だったのかというと、彼女の「はい」という相槌と返事でした。商品の説明をしながら、時折こちらの質問に答えたりするときや会話の端々に、はっきりと、でも柔らかく、スーッとこちらの心を軽くしてくれるような「はい」という言葉をすっと挟み込むのです。その相槌、返事の美しさに聞き惚れてしまったのでした。今まで自分自身も何度となく口にしてきた、また接客体験の場でも幾度となく聞いてきたはずの「はい」という言葉。そのたった2文字の言葉でも、こんなにもきちんと、存在感をもって相手の心に「遣わし」、届けることができるのだと感心し、同時に自分がいかに無意識に「はい」を「使って」しまっていたのかと気付かされたのでした。 敬語を正しく淀みなく使えるようにすることは、接客の上で大切なことです。ただ、いくら難しい敬語を正しく使いこなしていても、そこに思いや気持ちが伴わないと「慇懃無礼」ととられてしまうこともあります。言葉遣いは「心を通わせること」、それこそが何より大切な「本質」ということがわかります。誰もが知っていて誰もが使っている「はい」というとてもシンプルな言葉。こんなありふれた言葉でも、いえ、だからこそ、相手の心に丁寧に届けることができるように私もなりたい、そう思わせてくれた接客体験でした。 ----------※投稿いただいた内容をプライバシー、読みやすさの観点から一部編集させていただいております。