どの分野にも「プロフェッショナル」はいます。その仕事を極め、満足だけではなく「感動」を与えられる仕事こそが、プロフェッショナルの仕事だと私たちは考えます。そしてプロフェッショナルとしての仕事は、その仕事そのものよりも、いかにお客様の気持ちに寄り添い、素晴らしい時間を過ごしていただけるかということを大切にしているからこそ、感動が生まれるのではないでしょうか。JASPAでは、JASPAセールスプロフェッショナル資格制度を設立し、日々お客様の感動を生み出せる販売員の育成に力を注いでいます。その資格試験では、販売員の接客を厳しく審査するミステリーショッピング調査員がいます。このシリーズコラムでは、JASPAセールスプロフェッショナル資格の認定で大きな役割を担うミステリーショッピング調査員が出会った心を動かされるプロフェッショナルの仕事について、ご紹介していきます。第一回目は、顧客情報を完璧に頭に入れ、それを元にした会話術で「あなたから買いたい!」と思わせた高級外車のディーラーのお話です。母に先立たれて間もなく、仕事だけに生きてきた父が仕事を辞めました。そんな父が、やりたいことがいくつかあると言い、そのうちのひとつが、「中古でいいから、ずっと憧れていたベンツのオープンカーに乗りたい」ということでした。その望みを叶えるべく私たち家族は、時間を見つけては中古車販売店を回り、父の欲しい車を探していました。ある日のこと、入った中古車販売店で対応したのは、30代後半と見えるこの販売店の子息でした。私たちは彼から感じる無欲さやちょっとすかした感じが気になりつつも、車探しをお願いしました。実際に相談してみると、彼は市場に出回る数の少ないベンツのオープンカーの中から、なんとか父の細かい要望に応じたものを探そうと必死になって探し回り、頻繁に連絡をくれ、あまりよくなかった第一印象を払拭するのに、さほど時間はかかりませんでした。いつしか何とかこの人から車を購入したい、この人から購入できるのであれば多少の妥協も厭わない、そんな気持ちすら湧いてきました。そして、彼の一生懸命さや無理難題にも決して「NO」と言わない男気を感じさせる姿勢に、人を見る目の厳しい父ですらも魅了されていきました。彼の尽力のお陰で父は納得のいく愛車を手に入れ、颯爽と愛車をジムに乗りつけ、やりたいことの二つ目であった「ジム通い」を楽しんでいました。 しかし、順風満帆だった我家に、間もなくして父の癌が見つかりました。今まで仕事一筋で検診とは無縁であったため、見つかった時にはもう遅く、結局やりたいことのたった2つだけを、しかも2年も満喫せずに父はこの世を去りました。父の愛車は私が受け継ぐことにし、この先もずっと大切に乗ろうと思っていました。しかしその矢先、私は、車両全損となる大事故を起こしてしまったのです。車は大破しましたが、私は奇蹟の無傷。駆けつけた救急隊員や警察官も、これには驚いていました。父の愛車が、守ってくれたのだと思いました。そして、無残な姿の父の愛車を運び込む先に、私たち夫婦は迷わず彼の中古車販売店を選んだのです。 父の愛車が廃車となった後、私たちは、次なる車は憧れ続けていたベンツのゲレンデヴァーゲン(通称:ゲレンデ)の中古車を「その中古車販売店の彼から買おう」という気持ちで一致していました。彼は、父の車を探してくれたあの時と同様に、必死で探してくれました。そんな中のある日、彼から連絡が入りました。「数か月後にゲレンデのディーゼル車が販売される予定で、本体価格998万円と初めて1000万円を切ります」というのです。私たちも、それなら「中古ではなく新車を買おう!」と喜んだのですが、その新車は正規ディーラーでのみの販売。彼から購入することは不可能なのです。泣く泣く私たちは、近くの正規ディーラーで新車を購入しました。人とは薄情なもので、それからと言うもの彼の店に立ち寄ることはなくなりました。 そんなある日、主人が車をぶつけたのです。販売店に足を運ばなくなってから7年が経っていましたが、私たちは修理工場として迷うことなく彼の店を選びました。事前のアポも取らず訪問した私たちを見つけるなり、彼は足早に駆けつけ、開口一番「山田様、お元気でしたか?」と挨拶してきたではないですか!7年も会っていないのに何故、私たちの名前を直ぐに呼ぶことができたのか…。感心よりもむしろ恐ろしさを感じるほどです。ソファーに案内され、コーヒーを飲みながら談笑をしていると「ご無沙汰していますが、お変わりないですか?お子様たちは大きくなられたでしょう?」と質問されたので、「長男は就職活動中。次男は高校受験で、家の中がピリついてます!(笑)」と話すと、「そんなに大きくなられたのですね!」と驚きながら、「カングーは元気ですか?」と購入後17年のもう一台の車について尋ねられました。恐らく、何度か乗って来たのを覚えていたのでしょう。さらに「SLK(父の愛車であるベンツのオープンカー)の前で撮らせて頂いた写真をリビングに飾って下さっていると仰ってましたよね。」というではありませんか!確かに、今でも納車時に彼が撮ってくれた家族写真をリビングに飾っているのです。この人は、そんなことまで覚えてくれていたのかと、胸が熱くなりました。 こうした彼の言葉は空白の7年を忘れさせ、ホームに帰って来たような居心地の良さを与えてくれました。それは、彼の記憶力、パーソナリティが、一瞬にしてこうした感覚にさせてくれるのでしょう。私はこうしたお客様の人生にも寄り添うサービスができる仕事こそ、「プロフェッショナルの仕事」だと思うのです。-----※投稿いただいた内容をプライバシー、読みやすさの観点から一部編集させていただいております。※コラム中の写真は、イメージ写真です。※文中に出てくる登場人物は、仮名を使用しています。