こんにちは、モーターホーム株式会社の髙野と申します。編集部の⽅からリクエストいただき、DX(デジタルトランスフォーメーション)についてお話させていただいております。前回はまずそもそもDXという⾔葉の意味についてと、アパレル業界におけるDXの取組みについて触れてきました。企業が取組むDXにはステップがあり、ファーストステップとしてデジタイゼーションとその次のステップとしてデジタライゼーションがあることをお伝えしました。今回はそれがデジタイゼーションとデジタライゼーションのどちらか?ということは横に置いて、デジタル化が進んで業務がどのように変わっていったのかについて、これまでの経験をもとに綴っていきたいと思います。 今から20年ほど前になりますが、当時の私はあるレディースブランドのディストリビューターとして働いていました。主な仕事としてはバイヤーがオーダーした国内外からの買い付け商品の物流管理、全国20数店舗の投⼊計画と在庫管理でした。物流管理では各メーカーや商社からの受取りを倉庫で滞留させることなく、またMD計画に沿った店頭投⼊に結びつける上で調整することが⼤切です。倉庫での保管は保管料が掛かりますし、修正も含め計画に則った店頭投⼊を⾏わなければ販売機会の損失となってしまうからです。当時は前任者もおらずMDとバイヤーで⼿分けをし⾏っていたその業務を引継ぎ、改善していきました。例えばそれまで買付けのタイミングに各メーカーから提⽰される⼤体の納品予定を基に紙のオーダーシートを作成しFAXで送り、直前になってから電話で具体的な受取り⽇時の確認をするという流れでバイヤーが進めていた⼊荷業務。私が⾏なったことは各メーカーと⾃社倉庫、各店舗に本部MDとバイヤーなど関わる担当者が同じ情報を共有できるようパソコン(主にExcelとメール)で⼀元管理し、そのまま⼊出荷指⽰を⾏いつつ、それぞれの担当者にとって必要な情報も得やすいように投⼊計画も⽉次や週次に加え、型数や⾦額別なども確認できるように整理しました。業務のデジタル(パソコン活⽤)化で⾃社の価値を⾼める(倉庫管理費の削減と適切な店舗環境を保つ)という、これもDXに向けたひとつのデジタイゼーションですよね。また、たとえば各店舗への商品の展開と在庫の振り分けも⼤きく改善されました。それまでは単純に商品の特性(契約上の縛りや店舗の⽴地などと)や店舗ごとの⽉次予算に応じて機械的に振り分けていたものを、各シーズンの期⾸に展開ラインナップをまとめた内部カタログを各店舗に配り、併せてパソコンから他店舗の在庫状況も確認できるようにし、限られた顧客の⽅のみ優先的に事前予約や取寄せができるようにするなど、社内情報を透明化もITの進化で実現することができました。⽂章で書くと地味ではありますがこれが意外と効果の範囲が広く、旬なタイミングを逃さず店頭在庫の過不⾜を防ぐことで消化率が改善されたり、それまで負担のあった店舗間での在庫調整にかかる費⽤(⼈件費/配送費)を削減できたり、何より店頭スタッフと顧客の関係がよりHappyになるコミュニケーションツールとして活⽤されました。 さらにこのことは以降のECサイトとの連携においてもおおいに役⽴ち、在庫情報の⼀元管理に向けての礎となりました。コラムをご覧の⼀部の皆さんも業務上ご経験があると思いますが、ECサイトをご覧になったお客さまからの在庫確認であったり試着予約のご連絡、逆に⾃店在庫がなかった時の他店やECサイトの在庫確認など、今では当たり前になった全社単位での情報管理の⼀元化もDXに向けたひとつのデジタイゼーションです。 さらに商品情報と同じく全社単位での情報管理の⼀元化で新たな価値を⽣み出すことができたのが顧客情報だと思います。私が前職時代に取組み始めたのが2010年頃で、それまではまだ店頭でお客さまに紙の⼊会申込⽤紙へ記⼊いただき、それを集めて特定のパソコンからデータに置き換えるという作業を⾏っていました。 また集めた情報の使⽤範囲も⼩さくセールやイベントのご案内とお買い物で貯まるポイントの交換くらいでした。またお客さまからお預かりする情報の管理(セキュリティ)の観点からも何万/何⼗万もの紙を郵送で動かしたり何年も保管し続けるのはとてもリスクの⼤きいものでした。それをお客さまご⾃⾝の端末(スマホや携帯/PC)で直接ご登録いただけるようにし、ブランド単体だけでなく⾃社内のブランドすべてでポイントが貯まったりサービスを受けられるよう利便性を向上することで使っていただく頻度も⾼まり、お客さまの満⾜度も増します。会社にとっても使っていただく頻度が⾼まるということは売上が増えるということですし、そこで集まる購買情報を基に新たな開発や施策に結びつけお客さまとさらにコミュニケーションできる機会を設けることができます。店頭スタッフの⽅々にとってもご来店されるお客さまがどのような状態(どのような属性なのかはもちろん、直近での購買状況やSNSを通じての趣味趣向なども)でいらっしゃるのかを事前に知ることができるとコミュニケーションする幅が広がる可能性もあります。 さらに販売スタッフの皆さんの情報がここに加わることですでに顧客になられている⽅とももちろん、それ以外にも相性の良いお客さまとのマッチングなどが実現可能となり来店予約やWeb上での接客の機会にも繋がります。⾃社の仕組みはもちろん、前回のコラムでもご紹介したスタッフスタートやメッシュウェルなど外部のサービスとも連携することでさらに新しい出会いの機会が⽣まれる可能性が膨らみます。 ”アパレル業界のデジタル化”ということでは他にも、在庫管理や顧客管理を⼀元化して現場業務を⼤きく改善したこととしてレジの変化もあったかと思います。前職時代においても15年くらい前まではまだノートパソコンをレジの代わりに使っていましたが、専⽤のPOSレジが導⼊されたことで所謂”レジ締め業務”を含め店舗における売上管理はスタッフの作業を含め⼤きく改善と新たな価値創造に結びつきましたし、商品タグなどにチップを取付け情報管理をするRFIDの仕組みの導⼊は特に⼊出庫検品や棚卸し業務など在庫管理における⼤きな業務改善に結びつきましたし、盗難防⽌や店頭在庫を探す⼿間を省くなど新たな価値にも繋がりました。 このように過去を振り返るとアパレル業界でもデジタル化の取組みはさまざまなところで起こっていました。それでも尚、アパレル業界はDX化が遅れていると⾔われてしまうのかと⾔えば、個⼈的には会社全体としての理想やゴールが描かれてこなかった、もしくは描かれていたことが共通認識として共有されてこなかったからなのかなと思います。仕組みやシステムは⼀度出来上がってしまうと、後から別の何かとくっつけようと思ってもなかなか難しかったりそもそも出来なかったりすることもあります。結果論ですが、取組みのタイミングが少し早すぎた(or 遅かった)のもあるかもしれません。それでも今まではまだ⽇本の中だけのマーケットでも成⻑して来れましたが、今後の⾒通しはあまり良くないように感じます。会社やブランドが成⻑するためには何より”お客さまの数”が必要です。それも誰彼構わずでなく、よりブランドのことを良く思ってくれる⽅の。今後ますます限られた⼈数でそうした”未来の顧客候補”の⽅たちと巡り合うためにも、ポジティブな⾯持ちで⼩さな失敗を積み重ねながらも少し先の未来を⾒据えて、組織全体にデジタルを浸透させていくことがイコール企業のDX化に繋がるものと思いますし、企業がより永く続いていくのだと思います。 文:髙野一朗(モーターホーム株式会社 代表取締役)某ファッションセレクト企業に18年勤めたあと、その人脈をいかして、マーケティングコンサルタントやアドバイザーとして活動中。川上(企画/開発/製造/卸)から川下(マーケ/小売り/Web&EC/接客/CS)まで業界を横断的にサポートする、出会い繋ぎのスペシャリスト(opportunity creator)。2020年8月からはファッションデザイナーやブランドディレクターをマネジメントするエージェンシー「モーターホーム株式会社」を立上げ、D2C事業や企業のリブランディングをプロジェクトベースでサポートしている。国内のWeWorkで2万人以上いる入居者の中から14人だけ選出されたアンバサダーの一人。日々相談に訪れる人のメンターとして生み出したビジネスの実績は多数。