皆さま、はじめまして。世代・トレンド評論家でマーケティングライターの牛窪恵です。立教大学大学院(MBA)で、学生さんに「消費者行動論」を教えております。「共創」とは?今回は、「新型コロナ」という稀代のウイルスが、マーケットやお客さまのココロにどのような変化をもたらしたかについて、「共創(きょうそう)」というキーワードをあげてお話させて頂きます。 突然ですが、皆さんはお客さまから「信頼して買ったのに、ガッカリした」とクレームがあがったとき、つい気落ちしてしまいませんか?当然です。貴重な対価(金銭)を支払って頂くわけですから、皆さんが業務に忠実であるほど、満足して頂けなかった時点で「自分に落ち度があったのか」「もっと良いモノ(コト)を売ればよかった」とガッカリしますよね。でも実は、ここからが重要です。おそらくクレームを受けたあと、「申し訳ない」で終わらせず、「どこがお気に召しませんでしたか?」とお客さまに伺う方が、一定数いるはず。そして、次からもっと気に入ってもらえる接客や、もっと満足してもらえる商品(サービス)をお薦めしようと考える方も、少なくないのではないでしょうか。それこそが、「共創」の基本です。もともとは、「マーケティングの神様」とも呼ばれる、有名な経済学者のフィリップ・コトラー氏が、10年ほど前に提言した概念。この時期にコトラーが共創、すなわち「お客さまと共に、商品やサービスの価値を創り上げていく」ことの重要性を説いた最大の理由は、「SNS」の浸透でした。 日本はこの先、さらなる少子高齢化や人口減少に向かいます。新規のお客さまを取り込むのは、いままで以上に難しい。だからこそコロナ禍では、多くの企業がお客さまの個人情報やSNSの情報を「データ化」して一元管理し、こまめにメルマガを出したり、SNSを通してゆるく繋がったりしないとダメだ、と考えるようになりました。つまり、恋愛でいえば、新たに交際相手を探すより、これまでお付き合いしてきた相手に“嫌われないように”店頭だけでなくオンラインやSNSでアプローチし、その相手とできるだけ長く深く付き合っていこう、との視点です。ただ、その際に気を付けるべき点があります。恋愛を例に、考えてみてください。仮に、毎回ステキなデートスポットに連れて行ってくれ、会話の内容も示唆に富み、非の打ちどころ一つない相手がいたとする。付き合い始めた時点から、ずっと変わらず100%の満足を与えてくれるそんな相手を、皆さんは心から愛せるでしょうか。答えはおそらく「NO」。実は多くの人は、初めから完璧なモノを手にするより、不完全であっても「成長する」対象にこそ、愛情を感じるのです。タレントさんもそうですよね。昔はダンスや演技が未熟だったのに、ずっと応援し続けるなかで、彼らが少しずつ成長していく。デートも同じ。最初は好みを分かってくれていなかったのに、付き合ううちに理解が深まり、だんだんこちらが望む関係性に近づいていく。その「成長」の物語があるからこそ、人は強く共感し、「この人を応援しよう」や「もう少し付き合いを続けようか」となる。かのBTS(防弾少年団)のファンの方々も、よくそんな言葉を口にします。販売の現場もそうです。もちろん、無理に不完全なモノやサービスを提供するのは本末転倒ですが、でも最初からお客さまが100%満足してくださらなくてもいい。むしろ不完全こそがチャンス。肝心なのはその次のステップです。「ぜひ、あなたの望みを叶えたいんです」とまっすぐな思いを伝え、彼らが希望するモノやサービスの具体像を聞き、そこから共に、新たな商品やサービスを創り上げていく。その際、店頭だけでなく、場合によってはSNSやオンラインも使いながら、コミュニケーションを深めていく……。実は、コロナに悩まされてきた昨今のように、人は将来不安を抱くほど、あるいは自身の存在意義に悩むほど、「誰かの役に立ちたい」と考える傾向にあります。「ありがとう」と言われたり、自分の意見が何かをより良くしたと実感したりすることで、自己肯定感が得られるからです。コロナの時代、先行き不安を抱いたお客さまも多いと思いますが、彼らから何らかのクレームを言われた際は、ぜひ「チャンス」と捉え、「共創」の視点を胸に、彼らと共により良い商品やサービスを創るきっかけにしてくださいね。 文:牛窪 恵 (マーケティングライター/世代・トレンド評論家/インフィニティ代表取締役)東京生まれ。立教大学大学院博士課程前期(MBA)修了。大手出版社勤務を経て、2001年にマーケティング会社・インフィニティを設立。同代表取締役。企業各社との商品やサービス開発を通じて導き出したキーワードを基に、数多くの著書を執筆。05年に「おひとりさま(マーケット)」、09年に「草食系(男子)」が、それぞれ新語・流行語大賞に最終ノミネートされる。現在、立教大学大学院客員教授。テレビの報道番組、バラエティ番組の出演も多く、「所さん!大変ですよ」(NHK総合)や「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ系)など、7年間以上レギュラー出演を続ける番組も。日本マネジメント学会や日本マーケティング学会などでの学会・論文発表も行なう。財務省財政制度等審議会専門委員ほか、国の要職も数多い。近著は『若者たちのニューノーマル~Z世代、コロナ禍を生きる』(日経BP)