コロナ禍で訪れた新たなスタイル突然訪れた新型コロナウイルスの出現で、ファッション業界は大きな打撃を受け、今もなお回復には時間がかかっています。長きにわたっての外出の制限、仕事はリモートにシフト、一日の大半を自宅で過ごす人が増え、外出用の服を買う機会もなく、気分的にも「高揚するファッション」は必要とされなくなっていきました。未来の「こんな自分になりたい、表現したい」の可能性より、今を少しでも心地よく安心できるもので、服から派生するストレスをゼロにしたい、そんな消費者の気持ちが反映されたのが着心地と機能重視を優先する「パジャマスーツ」のようなラクなスタイル提案でした。 見栄えやスタイルをよく見せるようなシルエットは皆無、伸縮性のある素材で肩パットなし、ウエスト部分がゴムになったパンツスタイル、たまに出勤するもスニーカーが主流に。おしゃれというより、今を難なく生き延びるために必要なアイテムがトレンドとなったのです。 そして同時に、感度が高い人の間では、ラクならなんでもいいではなく、衣類との深い向き合い方を問い、見掛けやビジュアルにお金をかけるより 服が「自分のマインドに与える影響」を重要視するようになりました。つまり「なぜそれを着るのか?」という理由が明確であること、見てわかるデザインや色以上に、生産過程での作り手の顔が見えるような、嘘のない透明化された情報と自身の価値観との接点。 「なぜその素材、どこで創られたものか、デザイナーはどんな思いで?」など、自分と社会の流れとにリンクするものを求めるようになる、そうした本質的な行為が、ある意味トレンドになり、それが徐々に一般化されていくのではないかと。 例えば今大注目されているスモールサイズに特化したインスタグラムのライブ配信から火がついたブランドでは、デザイナーが毎日 小さいサイズあるあるな等身大の悩みを発信、ユーザー同士が集まれる場の提供や、ユーザーの声から商品を作ったりして、多くのファンを掴みました。ニッチ過ぎて商売にはならないと反対されながらも、作り手の思いを伝え続けたことが価値を作り出したように、トレンドは業界が大きく流れを作る時代から、消費者のほうから、「探されるもの」へと変化しています。 そう、自分のマインド、価値観と一致するものを。 価値観とファッション 具体的には「そのひとならではの持ち味が伝わるもの」で、どこのブランドを着ている、という誇示ではなく、生産過程での透明化、工夫やオリジナル性を感じるプレゼンに注目が集まっています。また着こなしのトレンドとしては、古着やヴィンテージを今のものと合わせたり、リメイクで手を加え唯一無二なものにする、親から引き継いだ大事なアクセサリーや時計を、新しい感覚で身につけるなど、「消費よりあるものを大切に」な気持ちが新しい。 こうした傾向は、地球環境やSDGsと深い関係があり、 中年以降はスタイルやポーズとして、若い人の間では、それが格好いいことというより「当たり前」の選択基準としてトレンド化していくでしょう。 私が教鞭をとってる専門や大学の若い学生さんの間では、真珠男子はもはや当たり前。実際よく似合っています。男女らしさ、より「その人らしさ」がキー。だからこそ「自分が何者なのか」という問いを満たすアイテムが必要です。ファッションショーやトレンド報道に大きく左右されるのではなく、自らが響くSNSなどの個人情報とリンクし、必要なものにたどりつける手立てを消費者それぞれが持つようになるでしょう。結果、マインドフルに服を着ること。そのような空気を持つ服や人がトレンドとなっていくのだと思います。 文:政近準子(日本におけるパーソナルスタイリスト創始者・ファッションレスキュー社長)日本を代表するアパレル企業 株式会社東京スタイル ファッションデザイナー出身。25歳でイタリアへ移住後、【その人を輝かせる服を提案できるパーソナルスタイリング】の必要性を提唱。2001年起業し、日本で初めて、タレントやモデルだけではなく一般の方にもスタイリングを提案。政治家、会社社長、管理職、起業家などの富裕層を主に顧客に持つ。ファッションレスキュー全体で、延べ2万人以上をスタイリング。