はじめまして、モーターホーム株式会社の髙野と申します。私は90年代にとあるセレクトアパレル会社に都内店舗の販売スタッフとしてアルバイト入社してから、約30年近く業界に関わらせていただいてます。前職時代ではMDやEC立上げなどを経験した後、08年当時アパレル/家具/飲食あわせて30以上あったブランドの会員サービス統合プロジェクトの立上げと運用、またEC会員との統合などに携わらせていただきました。現在はその時に培ったノウハウと他業界を含めた素晴らしい方々とのご縁を活かし、各社のお取組みのご支援をさせていただいております。 今回編集部の方からアパレル業界のDXというテーマでお話をいただき、今までの経験を交えつつ、そもそもDXってなんのこと?だったり、ここへたどり着くまでの移り変わりなどをお話したいと思います。何となくでも、今の世の中の状況ってこうなのかな?とか、これからアパレル業界はどんな風に進んでいくのか?など皆さん自身で考えるキッカケとなれたら嬉しいです。 そもそもDXってなんのこと?まず最初に「そもそもDXってなんのこと?」から触れて行きたいと思います。DX=Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)の略となり、経産省では「企業がデータやデジタル技術を活用してビジネス環境の変化に対応できるようにする。また顧客や社会のニーズをベースに製品やサービス、ビジネスモデルを変革して業務プロセスや組織、企業文化などを変革して競争上の優位を確立すること」と定義しています。少し短くまとめると”企業に関わる人すべてでITを活用し、ビジネスモデルだけでなく企業文化までも変革を行う。そうしなければ競争力は失われていく。”ということでしょうか。ちなみにDXを2025年までに企業が実現しないと最大12兆円の経済的損失が日本国内で発生するとも伝えられています。何だか重々しく感じられてしまいますが、DXの概念の提唱者は「ITが社会に浸透すると人々の生活はあらゆる面でより良い方向に変化する」という意味でDXという言葉を定義しました。”ITを特定の誰かだけではなく全ての人たちで活用しそれが広まると、いろんな事が良くなるよ”というとてもポジティブなことなんです。 DXという言葉の意味をなんとなくでもポジティブにイメージしてもらえたら嬉しいです。ここからはアパレル業界のDXに向けた取組みを私自身の経験も交えてお話し、より理解を深めてい他だけたらと思います。 デジタイゼーションとデジタライゼーションDXについてお話するのにもうひとつ知っておきたいのが”デジタイゼーション(Digitization)”と”デジタライゼーション(Digitalization)”という言葉です。どちらもデジタル化という意味にはなりますが、本質的には大きく異なります。デジタイゼーションは自社のビジネスをデジタル化して、新たな価値をもたらすこと。デジタライゼーションはデジタル化することで自社のビジネスモデルが変革し、顧客に新たな事業価値や顧客体験を生み出すこと。DXがゴールとすると、デジタイゼーションがファーストステップ、デジタライゼーションがセカンドステップになり、段階的に進めていく(すでに進められてきた)のが今の状況です。 私がこれまで経験した中で既存のアパレル業界が行なってきたデジタル化の取組みでデジタライゼーションに結びついた事例はEコマースくらいで、大半がデジタイゼーションだったんだろうなとあらためて実感します。そのEコマースもZOZO(当時はスタートトゥデイ)というスタートアップの会社がキッカケとなり、ネットでお洋服を買うことが広まり、既存のアパレル各社にEコマースがひとつの事業として確立していきました。あるセレクト企業ではEコマースの部署に100人以上の人員が配置されるようになり、ユニクロでは年間1000億円を超える売上規模になりました。ここまでの規模になるとWeb制作やシステム開発、物流/ロジスティックスなどの専門領域においては、特定のスキルを身につけた人材が必要となり、各社の人事採用方針もその活動も大幅に変化しています。 また業界内での人気の職種にも5,6年前頃から”EC担当”が加わるようになり、独自のMDやバイイングなども行われるようになりました。私が最初にEコマース部署を立上げた2004年当時は初年度の売上目標3,000万(事業構成比1%未満)、人員は正社員1人+パート2人だった頃から比べると、この15,6年の間にEコマースが大きく成長していることが分かります。立上げた部署もその後に他ブランドと合わせてひとつの部門にまとまり、今では部門の人員も100名以上となり、売上もEコマース全体で数百億円になっているそうです。 そして、また今後もますますEコマースの良さを活かして、外出を控えるお客さまや外国のお客さま向けに越境ECへの対応を強化し、さらなる成長へと繋げられる可能性もあります。特に越境ECでは、ここ数年アパレル業界も恩恵を受けていたインバウンド消費を補うものとして一部の期待も大きくなっています。海外のモール出店や自社Eコマースの海外対応などはもちろん、日本在住の外国人による店頭ライブ配信も売上貢献に結びつくでしょう。 さらにデジタル化は進み、アパレル業界でのDXにより近づいているのが販売員による”接客”や”コーディネート提案”です。特定の販売員を指名しての接客予約や、お気に入りの販売員がアップするコーディネート提案からそのままEコマースで購入するWeb接客など、直接店舗へ足を運ばなくても実店舗と同様か、もしくはそれ以上のサービスを受けられたりもできるようになりました。多くのブランドや店舗も導入されているバニッシュスタンダードのスタッフスタートなどは、販売員のデジタル上での貢献度を数値化できる仕組みも作られ、一部ブランドにおいては人事評価にも加えられるようになりました。 アパレル業界で働く人たちのマッチングサービスを提供するメッシュウェルは、スキマ時間や都合の良い時間にだけ働ける新たな雇用形態を作られています。ファッションレンタルサービスのエアークローゼットも、お客さんのニーズに合わせてオススメアイテムを選ぶということの価値を、サブスクリプションサービスを通じて提供されています。あらためて人同士のコミュニケーションに価値があることが、デジタル化が進んだことで浮き彫りになったというのも面白いですね。 次回は少し時代をさかのぼって、デジタル化される前とされた後とで業務とサービスがどのように変わっていったのかに触れてみたいと思います。 注釈※1.越境EC海外の顧客がインターネットを介して日本国内のECサイトでお買い物すること。Webインバウンドとも言われ、コロナ禍によってほぼゼロになった外国人観光客による店頭購買の代替え案としても各社強化している施策のひとつ。 注釈※2.バニッシュスタンダード多くのアパレルショップが導入しているサービス「STAFF START (スタッフスタート)」を開発/運営している会社。 文:髙野一朗(モーターホーム株式会社 代表取締役)某ファッションセレクト企業に18年勤めたあと、その人脈をいかして、マーケティングコンサルタントやアドバイザーとして活動中。川上(企画/開発/製造/卸)から川下(マーケ/小売り/Web&EC/接客/CS)まで業界を横断的にサポートする、出会い繋ぎのスペシャリスト(opportunity creator)。2020年8月からはファッションデザイナーやブランドディレクターをマネジメントするエージェンシー「モーターホーム株式会社」を立上げ、D2C事業や企業のリブランディングをプロジェクトベースでサポートしている。国内のWeWorkで2万人以上いる入居者の中から14人だけ選出されたアンバサダーの一人。日々相談に訪れる人のメンターとして生み出したビジネスの実績は多数。