アパレルが大きく関わるSDGsの「目標12」SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)は、2030年までに解決すべき様々な課題に対して、17の目標と169のターゲットを掲げています。SDGsに取り組む上で重要なことは、企業は地球環境に配慮しながら製品開発を行い、その製品やサービスを通して、社会的課題を解決するとともに自社の成長を図ることです。 環境的な側面に関わるものには、「目標6:安全な水とトイレを世界中に」「目標7:エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」「目標12:つくる責任、つかう責任」「目標13:気候変動に具体的な対策を」「目標14:海の豊かさを守ろう」「目標15:陸の豊かさを守ろう」等がありますが、アパレルメーカーにとって「目標12」は特に大きく関わります。 衣料品の大量廃棄が世界的に問題になっています。2000年から2015年にかけて、世界人口は2割増え、安価なファスト・ファッションが人気を集め、衣料品の生産は2倍に増えました。しかし、安く買った服は飽きたらすぐ捨ててしまうケースが多く、捨てられる繊維製品は世界で年間8000万トン以上になると言われます。 日本でも、セールやアウトレットで売れ残った衣料品は年間100万トンあり、廃棄処分にされるケースが多い現状があります。(中小企業基盤整備機構調べ) 廃棄衣料を減らし、資源の有効利用「大量生産・大量消費・大量廃棄」は、地球環境のサステナビリティ(持続可能性)を損うリスクがあります。近年、この課題を解決しようという新たな動きが出てきています。メーカーの在庫を、ブランド名を表示せず再販する仕組みやラッピングの簡素化、ハンガーの再利用など、廃棄衣料を減らし、使えるものは繰り返し使っていこうという動きが少しずつ広がっています。 百貨店でも、高島屋は2021年6月から、都市部の店舗でポリエステル製の衣料の回収・再生・販売をセットにした取り組みを開始します。回収した衣料をポリエステルに戻し、ジャケットやTシャツなど新たな製品をつくり店頭で販売します。2025年を目途に、同社オリジナルのポリエステル製商品はすべて再生素材を利用し、サーキュラーエコノミー(循環経済)を目指していきます。 環境の取り組みで先行する欧州では、ハイブランドが、環境に配慮した原料調達や生産工程、過剰包装の廃止などサステナブルを追求し、SDGsに貢献しています。例えば、ルイ・ヴィトンは、金やレザーなどの高価な原材料を二次利用するための特殊な再利用加工技術を採用し、資源の有効活用を図っています。また、バーバリーは売れ残り製品の焼却処分を取りやめ、再利用や修理、リサイクルに努め、過剰在庫を減らすために購買ターゲットを絞り生産量縮小を行うと発表しています。 優れたデザインとサステナビリティをセットで考える時代になったと言えます。 化粧品の容器は、SDGs「目標14」に貢献を!化粧品業界もSDGsに取り組んでいます。廃棄されたプラスチックが海に流れ込み、将来プラスチックが魚類よりも多くなると予測されるなど、海洋プラスチック問題が深刻化する中、SDGsの「目標14:海の豊かさを守ろう」を実現すべく、代替プラスチックやリユース可能な容器を採用する化粧品メーカーが増えています。 仏化粧品メーカーのロレアルは、2019年10月紙製の化粧品チューブを開発したと発表していますが、2025年までにすべての容器・包装を植物由来に切り替え、脱プラスチックを実現すると表明しています。日本のメーカーでは、コーセーが2021年2月、子ども用の日焼け止め製品に紙製キューブ型容器を採用し、プラスチック容器を使用した場合と比較してプラスチックの使用量を約55%削減しています。 花王は、4R[Reduce(減らす)、Replace(置き換える)、Reuse(再利用)、Recycle(リサイクルする)]の視点で、包装容器に使われるプラスチックの量を減らす取り組みを進めています。資生堂は、2020年11月の新製品、リップパレットの製品ケース(ボディ・蓋)に、100%植物由来の生分解性ポリマーを採用しました。海水中で生分解し(微生物の働きにより分子レベルまで分解し、無機物まで分解される)、海洋汚染を減らすことに貢献できます。アパレルや化粧品メーカーが、SDGsの実現に向けて積極的に動き出しています。アパレルも化粧品も美しいものをお客様に提供します。その商品とサステナビリティの関わりを知っておくと、自信をもってその商品の魅力を提案できるのではないでしょうか。 文:松本 真由美東京大学 教養学部環境エネルギー科学特別部門 客員准教授 専門は環境・エネルギー政策論、科学コミュニケーション。研究テーマは、「エネルギーと地域社会」、「環境・エネルギー政策の国際比較」「企業の環境経営動向」等、環境とエネルギーの視点から持続可能な社会のあり方を追求する。上智大学外国語学部在学中から、TV朝日報道番組のキャスター、リポーター、ディレクターとして取材活動を行い、その後、NHK BS1でワールドニュースキャスターとして6年間報道番組を担当。2003年以降、環境NPO活動に携わる。2008年5月より研究員として東京大学での環境・エネルギー分野の人材育成プロジェクトに携わり、2013年4月より現職。東京大学教養学部での学生への教育活動を行う一方、講演、シンポジウム、執筆など幅広く活動する。