「障がいのある方が店舗に来られて、お買い物をする際にどのように接客したら良いかに迷う。」と言った声を聞くことがあります。特にコロナ禍においては、障がいの無い方への接客にも戸惑うところだと思います。パラアスリートで車椅子ユーザーの山本恵理が、当事者目線からのサービス、販売者の皆さんへのお願いを綴ります。 “障がい”とは選択肢がないこと、バリアフリーとは人が選択肢を生む社会私は、二分脊椎という生まれつきの疾患があり車椅子を使用して移動しています。そんな私が障がいだと感じること。それは大半の人々が持っている選択肢が私にないと感じたときです。ショッピングの際、素敵なお店の前に階段がある、高いところの商品が見えない、手にとれないと言ったハード部分の障がいもありますが、店舗のスタッフが全然声をかけてくれない、一緒にいった友人や、母、私以外の人としか会話しない、などといった経験もあります。ハードの障がいも、ソフトの障がいも、どちらも「人」によって解消することができます。皆さんの一声が、サービスが、その選択肢を生みバリアフリーが広がっていきます。コロナ禍だからこそ、距離を取った上で、心は近いコミュニケーションが、障がいのあるなしにかかわらず求められているのではないでしょうか。 想像力を働かせて、皆さんの接客ポリシーを貫いてみなさんが、接客する際大切にしていることはなんですか?お客さんのニーズを汲み取って、それに合わせたご提案をすること、おすすめ商品を買ってもらえるよう魅力を十分に説明すること、気持ちよくお客さまに店舗の商品を購入してもらうことなど、みなさんが日頃気を配っているポイントがあると思います。私が「強く」ご提案したいのは、その姿勢を障がいがある人にも、ない人にも同じように適用させてほしいということです。ただその時に、少しの想像力とコミュニケーションを忘れずに。例えば、私はあるお店で雨の日に商品を購入しました。その商品を紙袋に入れてもらった後、店員さんが「雨よけのビニールおかけしますか?」と聞いてくれました。雨の日に傘をささずに、雨がふってくるよりも早い速度で車椅子を漕ぐのが雨に濡れないための対処方法である私は、買ったばかりの商品が私の膝の上で濡れるのは嫌だったので、すごくありがたく「助かります。お願いします!」と返事をしました。その後、私の膝に乗ったのは、持ち手に手が痛くならないように緩衝シートを巻いたために、持ち手が1つに束ねられた紙袋でした。皆さんにとってはこれが、その日の天気と、お客さんへの心遣いの基本なのだと思います。しかし、私にとっては、むしろ逆で商品を持って帰りづらくなったのです。車椅子ユーザーは基本的に両手を使って自分の車椅子を操作するので、手に商品を持って移動することは難しいです。持ち手を緩衝シートで巻かれてしまうと、どこにもひっかけたりすることができず、結果的に持ち運びづらくなりました。今、皆さんはこれを読んで、車椅子ユーザーが商品をどんな状態で持ち運んでいるか、想像できなかった人も多いのではないでしょうか。ここまで読んで、どのように購入した商品の紙袋を持ち運ぶか気になり始めましたか?日本にパラリンピックが来ると決まってから、障がいのある人も以前よりは外にでてショッピングを楽しんだり、お出かけをするようになりました。しかし、障がいのある人と、ない人とのコミュニケーションが進まず、「障がいのある人が何に困っているか」が他の人にはわからないことが多いです。障がいのある人が困っていることは、障がいによっても違いますし、それぞれの人によっても、そもそも違います。障がいのない人でも十人十色のニーズがあるように、私たちもそれぞれです。だからこそ、想像力と、わからないところは「聞く」ということが大切だと思います。その人が家まで素敵な商品を持って帰って、ワクワクしながら紙袋を開けるその瞬間まで、皆さんのサービスが行き届きますように。 文:山本恵理 氏(パラ・パワーリフティング選手/日本財団パラリンピックサポートセンター 推進戦略部 プロジェクトリーダー)先天性の二分脊椎症により、生まれつき足が不自由。幼少時より水泳、パラアイスホッケーで選手として活躍。大学で障がい者スポーツを学ぶ中、自国開催のオリンピックに携わるべく、2015年より、日本財団パラリンピックサポートセンター(パラサポ)職員。2016年の5月、東京都主催のパラリンピック体験プログラムで初めてパワーリフティングを体験したことから、選手として東京パラリンピックを目指すことを決意。パラサポで障がい者理解の事業を担当しながら、国内外の試合に出場中。