新型コロナウィルスの感染拡大を受けて、消費者は外出自粛を余儀なくされており、百貨店や専門店、飲食店やレジャー等の外出型消費は大きく落ち込んでいる。コロナ収束には数年かかるとの見通しもあり、中期的な視点で消費動向を予測する必要がある。今後の消費動向を予測する上で、コロナ禍によって生まれた新しい動きと、コロナ禍以前からの消費変化との、二つの視点で考察していく。 コロナ禍によって生まれた新しい動き:ニューノーマル前者のコロナ禍によって生まれた新しい動きとはニューノーマル(新常態)とも呼ばれ、感染機会防止のためのテレワークやステイホームが「巣ごもり消費」という新たな消費動向を生み出している。ネットショッピングの増加は勿論のこと、自炊が増えたことによる食品や調理機器へのこだわり、動画配信サービスやゲーム・漫画などのコンテンツ支出、DIYや模様替えなどホームファッション(インテリアや寝具、生活雑貨まで室内装飾全般)を楽しんでいる。その背景には精神的・時間的余裕のある丁寧な暮らしへの回帰である。 外出自粛でメイクアップ化粧品が売れない一方で丁寧にスキンケアをする、スタバに行く頻度が減った一方でダルゴナコーヒー(韓国発のラテ)を手作り、外出着を買わない一方でお洒落な部屋着を購入する。そしてそのこだわった丁寧な暮らしをSNSやYouTubeにアップするのも新しい動きである。今後も衣食住全般の「丁寧な暮らし」に関する消費は継続するだろう。そしてその消費は他人に紹介(自慢)できる「映え」るものでなければならない。コロナ禍以前からの消費変化パーソナライズ化 後者のコロナ禍以前からの消費変化の一つはパーソナライズ化(*1)である。若者を中心に皆が同じ流行を追うのではなく、自分の個性を生かせるもの、趣味嗜好に合うもの、本当に似合うもの、すなわち「自分らしさ」を重視する傾向がみられる。 店舗側は単に幅広く品揃えをすればいいのではなく、どういった趣味嗜好を持つ人達のために存在している商品・ブランドなのかを明確化する必要がある。他社・他店にもある均質化したものではなく、尖った商品が求められる。そして診断やカウンセリングによって最適な商品を提案できる仕組みも必要であり、「今の自分にぴったり」「自分のためのブランド」と実感してもらわなければならない。サスティナブル消費 また地球環境維持を重視したサスティナブル消費(*2)の動きも活発化していくだろう。単にエコ商品(環境配慮商品)を選ぶだけではなく、社会貢献に積極的に取り組む企業姿勢かどうかも消費者の選択基準になっている。そして利他的(*3)な消費行動(他人を支援・救済)も近年の特徴である。 例えば震災復興のために地元特産品を購入したり、職人技術を残すため伝統工芸品を購入するような行動であり、不特定多数から資金調達するクラウドファンディングによる購入・消費行動も増えていくだろう。ITを活用した消費行動 コロナ禍で更に進展したのはAI・ITを活用した消費行動である。コロナ禍でスマホでのキャッシュレス決済が急増することで、スマホが消費者と企業・店舗とをつなぐコンタクトポイント(*4)になっている。今後、消費者はスマホでお得情報チェックやポイント管理をするだけでなく、店員とのチャットなど双方向交流が増えていくだろう。 コロナ禍がしばらく続くとすると、遠隔での接客カウンセリングやインスタライブでの商品紹介のニーズはもっと高まり、VR(バーチャルリアリティ:仮想空間)によるショッピングも実用化が進むだろう。コロナ禍とAI・ITの進展によって、わざわざ店舗に行かなくても買い物ができる時代である。だからこそ消費者は実店舗にはスマホや遠隔接客、インスタライブ、VRでは経験できない特別な顧客経験を期待する。その為の工夫も必要である。 *1 すべての人に同じサービスを提供するのではなく、お客様ひとりひとりの好みや購入履歴やどんな広告を見たか、どんなサービスを利用されたかなどの行動に合わせて、最適な商品・サービス・情報を提供するやり方や仕組みのこと。*2 環境を害せず、限られた資源を大事にし、将来的に持続可能な社会をつくることを配慮した商品を購入すること。*3 自分の利益よりも相手のことを優先する考え方*4 顧客接点 文:武庫川女子大学経営学部教授 高橋千枝子氏神戸大学経済学部卒業後、株式会社三和総合研究所(現:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)に入社。消費財・サービス分野のマーケティングリサーチや事業・ブランド戦略、M&A支援、事業化支援に従事し、特にヘルス&ビューティケア分野を得意とする。著書に、『高くても売れる!7つの法則』、『「肥満解消」マーケティング』、『図解 健康業界ハンドブック』などがある。商学博士、経営学修士(MBA)、中小企業診断士。