私達はどうしてお店で物を買うのでしょう?今の世の中大抵のものはポチっとすれば家に居ながらにして買えますよね。でも買いたいものがそのお店にしかなければ、人はそこへ足を運びます。ところが、買いたいものが他のお店にあっても「その店」にしか行かない人がいます。場合によっては、買いたいものが無くても「その店」で買い物したくなる人がいます。実は私の母がそうでした。そのお店の雰囲気が好きで、仲良くなったそのお店の店員さんと話をするのを楽しみに出かけるのです。とはいえ何も買わずに長居はできませんから、たまに出かけるその時はおめかしして、その店のお値段の張る何がしかを買ってくるのです。母は買い物をする「時間」にお金を払っているようなものでした。「一回の顧客を一生の顧客にする」というタイトルの本がありますが、まさにそんな事例です。お客様がお店で商品を買うということは、商品の魅力だけでなく販売員の魅力がお店に大きく貢献することを意味するのです。ここでお客様を惹きつける販売員の魅力について考えてみましょう。ここまでの話から、魅力的な販売員はお客様との会話が上手いことがわかります。そして話し上手は聞き上手とも言います。ある雑誌社の調査で100人に聞いたところ、聞き上手の人に好感を持つと答えた人は89%に上りました。つまり、魅力的な販売員はお客様の話を引き出すことが上手な人ということになります。まさにこのコラムで前回書いた「相手を大切な人だと思って関心を持って問いかけ、その問いから相手の心に届く提案を考えられる人」と一致します。お客様の話を引きだす魅力的な販売員になるには「問いかけ」が重要になってきます。その問いかけのコツを魔法の言葉にして6つ紹介します。魔法の言葉1:心のバリアをなくす多くの人は初対面の相手と話す場面で緊張するものです。その緊張を解く方法としてもっともよく使われているのが「挨拶」です。こちらから「いらっしゃいませ」や「いつもありがとうございます」と挨拶をすることは儀礼的な意味だけではなく、心のバリアを開放する効果もあるのです。「この前いらっしゃった日は雪で大変でしたね?」「今日はお時間ありますか?」などと問いかけることでお客様の心のバリアを取り除きましょう。魔法の言葉2:お客様の背景を知るお店にお客様が来店すると、普通は『何か買いに(見に)来たんだろうな』と思いますよね。もちろんそれはそうなのですが、お客様はそれぞれが様々な事情を持って来店します。簡単に言えば「自分用なのか贈り物なのか」といった事情を知ることで、その商品を使用する場面が変わりますよね?「何にお使いですか?」や「いつお使いになるのですか?」という問いかけは、お客様の背景情報を知る手掛かりになるのです。魔法の言葉3:潜在的な欲求を知るお客様が贈り物をする時、必ずしも実用性を重視しているとは限りません。贈る相手への感謝の気持ちを伝えたいのかも知れません。その気持ちを商品によって表すのか、付随するサービスによって表すのかは人それぞれです。「メッセージカードをおつけしますか?」や「包装はどのようにしますか?」という問いかけは、お客様の潜在的な欲求を知る手掛かりになります。魔法の言葉4:お客様にささやきかけるお客様の背景や欲求を知ることで、販売員からの提案が魅力的なものに変わります。例えばメッセージカードを書くにも「自分で書く」「あらかじめ用意された文面を使う」方法があります。カードの色や種類を選ぶことができるかも知れませんし「お客様ご自身で用意されたものをお持ちいただいて一緒にお包みすることもできますが、いかがいたしましょう?」と提案する形で問いかけることもできます。こうした問いかけは、いわゆるテンプレート(ひな形)でできるものではなく、その販売員固有のささやきとして魅力に結びつくのです。魔法の言葉5:一緒に実行するお客様に対して魅力的な提案ができても、実行されなければ意味がありません。むしろお客様の感情を悪化させてしまいます。「では○○のようにいたします。よろしいでしょうか」と問いかけることで、互いの勘違いを防ぐことができ、お客様の信頼獲得につながります。魔法の言葉6:相手を離さない商品には継続性があります。例えばオプションがついていたり、補充が必要なものであったり、シリーズの派生品があったりします。それと同じように、お客様との会話にも継続性があります。「あの商品はいかがでしかた?」「先様の反応はいかがでしたか?」といった問いかけは、販売員がお客様に関心を持っていることをお客様に認識させ「この人から買って良かった」と思わせる効果があります。そうして生まれる販売員とお客様の信頼関係が「一度の顧客を一生の顧客にする」いやむしろ「販売員を一生のコンシェルジュにする」ことにつながるのです。文:中西真人氏(M&R Consulting代表)1960年生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。 自動車メーカー、流通業、外資系コンサルティング会社を経て、1996年にM&R CONSULTING代表として独立。独立後は、顧客企業の課題の発見から解決までのプロセスを顧客と共有しながら進めるサービスが好評で、様々な業界の大手企業を顧客に持ち、信頼も厚い。また講演・研修では、「なるほど」とうなずける裏付けのある内容と論理的な解説あり、工夫されたワークにより、明日から即実戦に活かせると評判も高い。JASPAでは、トレーニング動画「タイムマネジメントー自分時間の創り方ー」で講師も務めている。<主な著書>『実務で役立つプロジェクトファシリテー ション』 (翔泳社)『プロジェクト・マネジメント』 (かんき出版/共著)『思いどおりにお仕事を進める対人関係トレーニング』 (かんき出版)