在宅勤務や自宅待機になっている今だからこそ、普段はできないことに積極的に取り組んでみるのも、有意義が過ごし方ですよね。CheerUp!を運営する日本プロフェッショナル販売員協会(JASPA)で人気の「Art鑑賞ワークショップ」の講師を担当していただいているシャネル合同会社の中村美由紀さんに、お客様とのコミュニケーションにも役立つArtの見方についてお聞きした後編です。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ーーそれではここで「ひまわり」の謎に迫ってみましょう。ゴッホはなぜ南仏のアルルに移り住もうと思ったのでしょうか?そこには日本の存在が影響したと言われています。19世紀後半のパリでは、浮世絵を中心にジャポニスム(日本趣味)が大流行しており、ゴッホもその例にもれず、歌川広重(1797年~1858年)等の浮世絵に強い憧れを抱き、その影響も受けていました。(フィンセント・ファン・ゴッホ 『日本趣味 : 梅の花』1887年 ファン・ゴッホ美術館 )https://artsandculture.google.com/asset/flowering-plum-orchard-after-hiroshige-vincent-van-gogh/2wF6nM1fOWEp8Q そして、浮世絵の世界である「光に満ちた日本」はゴッホにとってのユートピア(理想郷)であり、それを実現するために、太陽の光あふれる暖かい南仏アルルに、光をイメージさせる「黄色い家」で芸術家たちのユートピアを実現しようとしたのでした。また、牧師の息子として生まれ、自身も一時牧師の道を目指していた信仰に篤いゴッホは、太陽に顔を向ける花「ひまわり」がキリスト教で「愛」と「信仰心」の象徴であったことも十分知っていたといわれています。上記以外にもゴーガンとの共同生活や耳切事件などにまつわる謎も多く、ゴッホの《ひまわり》が名作といわれる所以は様々ですが、いつの時代も人々に愛される作品であり続けるのではないでしょうか。 《ひまわり》をはじめ、15世紀のルネサンスから19世紀のポスト印象派までの名品を俯瞰できる「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」は、自宅でのアート鑑賞にうってつけの展覧会といえるでしょう。ロンドンから来日中にもかかわらず実際の作品を東京で見られない場合は、7月7日から大阪の国立国際美術館にも巡回されますので、もしかすると目にすることができるかもしれません。 また、日本で7枚のゴッホの「ひまわり」を一度に観られる場所に徳島県の大塚国際美術館があります。同館は世界の名画を陶板で原寸大に再現しているユニークな美術館です。「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」でゴッホの《ひまわり》通になられたら、次回のお客様との接客の際にカンバセーションピースのひとつにしていただければ幸いです。 「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」東京展:2020年6月18日(木)~10月18日(日)※会期変更国立西洋美術館(東京・上野公園)https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2020london_gallery.html大阪展:2020年11月3日(火・祝)~2021年1月31日(日)※会期変更国立国際美術館(大阪・中之島)http://www.nmao.go.jp/exhibition/2020/london_na.html 「アートの見方」を身に付けるためのガイドブックゴッホは、美術史で「ポスト(後期)印象派」の代表作家として位置づけられていますが、アートの見方として、美術史の時代区分と特徴を押さえておくと、アート鑑賞の際の道標となってくれるでしょう。皆さまがご自身でアート鑑賞をされる際のガイドブックとして、2冊ほど紹介させていただきます。 早坂 優子 『巨匠に教わる 絵画の見かた』視覚デザイン研究所、1996年ルネサンスから20世紀美術までの画家や美術史の基本的な事柄が、画家たちの言葉とイラストで解説されています。肩の力を抜きながら美術史に親しむための一冊です。 渡辺 晋輔、陳岡 めぐみ『国立西洋美術館 名画の見かた』 集英社、2020年「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」を主催の国立西洋美術館現役キュレーター(学芸員)、渡辺 晋輔氏(イタリア美術史)と陳岡 めぐみ氏(フランス美術史)が「名画の見かた」をていねいに、わかりやすくレクチャー。誌上ギャラリー・トークも充実しています。 「アートの見方」に関する書籍は他にも多数出版されていますので、お気に入りを見つけられたら「Google Arts & Culture」で多くの作品を鑑賞してみてください。きっと今までとは違った視点で作品が見えてくるでしょう。 文:中村美由紀 氏(シャネル合同会社 人事総務本部 人事部) 京都造形芸術大学(2020年4月1日より京都芸術大学へ名称変更)大学院芸術研究科 芸術環境専攻 修士課程を修了し、学芸員資格を取得。日本プロフェッショナル販売員協会(JASPA)の教養系プログラムでは、東京都美術館での『ゴッホとゴーギャン展』、三菱一号悪寒美術館での『オルセーのナビ派展』等のアートツアーを企画、及びコーディネート。