高島健一さん新規事業コンサルタント/高島健一事務所代表<プロフィール>世界中、人が集まる場所に必ず足を運び、自分で買い、体験し、ヒット商品、成長事業を誰より早く探し出す異色の新事業コンサルタント。慶應義塾大学湘南キャンパスと全国の企業を結ぶインターネット研究会「コマース・アレー」、全国経営者の会「耳よりの会」主宰。最新の新商売、新製品、新技術、話題の新施設、新しい売り方などの情報を提供するセミナーは目がさめると大評判。 新型コロナ以前の日常には、もう戻れない。新しい世界と向き合おう新型コロナの世界的な大流行が収まった後の世界を想像した時に、私の脳裏に浮かんでいる言葉があります。それが、文豪・川端康成の著した名作『雪国』の冒頭の一文です。国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。 今、私たちは暗く長いトンネルの中にいますが、そこを抜けると真っ白な世界が広がっている…。そんなイメージです。そこはもう、まったく新しい世界になると思います。もう世界が、”コロナ以前”の姿に戻ることはないでしょう。私たちは今、それだけ大きな変化に直面しているんです。 ファッションに関連した話で言いますと『VOGUE Italia』の2020年4月号の表紙が、モデルを使わず、ただ真っ白なデザインになっていました。「白」というのは、生まれ変わりを意味するんですね。そして、「暗闇の後の明るさ」を表しているのだとも説明されていました。また、『VOGUE Italia』が書いていたのは1929年に始まった世界大恐慌の後、白い服が流行したという話でした。「純粋さ」であり「未来への希望」が込められた色が流行ったのだと。 そして「真っ白い紙」には、色彩豊かな絵を、自由に描くことができます。新しいものが生まれていくんです。これからは、そういう時代になっていく。私たち自身が、巨大な白いキャンパスに、美しい絵を描いていくんです。 私は、そう考えています。当然、ショップのあり方も変わっていくでしょう。 「オンライン」でも「リアル」でも、販売員が、より魅力的な存在に私は、この先にある「真っ白な世界」では、販売員さんの重要性が、今まで以上に増していくと思っています。少なくとも、お客様との接客時間は、とても増えるでしょうね。その理由が、「オンライン」と「リアル」の両立にあります。今回の外出自粛要請によって、これまでオンラインショッピングを活用していなかった人たちも、Amazonなどを活用するようになりました。それから、ZOOMなどのオンライン コミュニケーション ツールを活用する人も、劇的に増えました。これまでまったくテレワークへの備えを行っていなかった企業も、一斉にテレワークを実施するようになりました。結局はそれほど大きな投資を必要とすることなく、ZOOMやLINE、Teamsなど、世の中にすでに存在しているツールを使ってテレワークすることができたのです。世界中の人が、これまで以上に、オンラインの便利さを体験したのです。コロナ禍が収まった後でも、こうしたニーズがなくなることはないでしょう。その一方で、「オンラインだけでは物足りない」という思いも強くなっています。やはり、実際に人と触れ合えないのはさみしいものです。「オンライン疲れ」なんて言葉も聞かれるようになりました。ショッピングにしても、五感を使って実物を確認できないと、物足りないものです。リアル店舗に足を運ぶショッピングの楽しさは、決してなくなりません。外出自粛要請が解ければ、多くのショップがお客様で賑わうでしょう。でも、ここで忘れてならないのは、「新型コロナが完全に消えてなくなることはない」ということです。今後、流行の第2波、第3波も考えられます。だから、ショップも、「オンライン」と「リアル」の両面を強化していくことが望まれます。今一番成功しているのは「ライブ コマース」という形式でしょうね。分かりやすく言えば、”お客様と対話できるテレビショッピング”という感じです。販売員とお客様がオンラインを通してリアルタイムにコミュニケーションする販売形式です。あるいは、YouTubeやInstagramなどに動画を配信して、商品の魅力を訴求するのもいいでしょう。低年齢層を狙うならTikTokも非常に有効です。ここで重要になるのが、販売員さんの人間的な魅力です。魅力ある販売員さんとの対話というのは、ショッピングの一番の楽しみですからね。それは、オンラインであっても変わりません。しかもYouTubeやInstagramで販売員さんが話している姿を見て「この人に会ってみたい。この人の話をもっと聞きたい」と思ってもらうことができれば、そのお店に人が殺到しますよね。外見の良し悪しは、問題ではありません。商品知識の深さだけでも、十分ではないでしょう。人間的な魅力というのは、そんな表層的なことではないのです。 時代やテクノロジーが変わっても、本当に大切なことは変わらない人としてのあり方が、今まで以上に重視される時代になると思います。 分かりやすい例が、「コミュニケーション力」です。オンライン ショッピングが今後さらに多様化してくると、ビデオ通話だけではなく、文字だけのチャットやメールなど、いろいろな形でお客様とコミュニケーションする機会が増えてきます。そうなると、言葉のすれ違いがトラブルを招く確率が高まってきます。昔、私の周りでも、職場の人間同士がチャットをしていたら、最後には殴り合いのケンカにまで発展してしまったという笑い話がありました。 皆さんは、そこまでひどい経験をしたことはないと思いますが、「言葉による誤解」というのはどうしても生じてしまうものです。それをいかにして少なくしていくか。きめ細やかな気遣いが求められていくことでしょう。 けれど私は、販売員の方々は、こうしたコミュニケーション能力を高めていく上で、非常に有利な場所にいらっしゃると思います。 だって、コミュニケーション能力が磨かれるのは、実践の場が一番ですからね。 販売員の方々は日頃から、非常にたくさんのお客様とコミュニケーションされています。しかも、お客様を選ぶことは出来ません。それこそ、いろんな個性を持った人がいますからね。そうした、ランダムな出会いに恵まれているのは、とても素晴らしいことです。 そうした経験を積まれてきたことを、まずは自信に思っていただきたいですね。 今まで、数多くのお客様と触れあって来られた経験は、オンラインでコミュニケーションする上でも、非常に大きな強みになります。 テクノロジーや環境が変わっても、人間そのものは変わりません。これまでの積み重ねてきた経験こそが、最大の武器になるのです。堂々と胸を張って、新しい時代に踏み出していただきたいと思います。 これから先の変化は、私たち一人ひとりの肩にかかっているこれから先、環境によっては、まだまだ苦しい状況が続くかも知れません。しかしこの先にはきっと、いいことがあると思います。 これまで、変えようと思っても、変えられなかったことが、良い方向に一気に変化する可能性もあります。 皆さんご承知の通り、日本のアパレル業界は、常に供給過な状態にあります。 豊富な商品。いくつものカラーバリエーション。きめ細やかやサイズ設定。 店頭には常にたくさんの商品が並べられていますが、多くは売れ残ってしまい、ファミリーセールなどを行ってもさばき切れずに、ゴミとして海外に送られていきます。 寒くなってきた時には春夏物が店頭に並び、熱い盛りには秋冬物が並べられるローテーションも、販売機会の損失につながっていると考えられます。 こうしたことは、今までなかなか見直されることがありませんでした。 しかし今後、ショップのあり方そのものが見直されていく中で、より強力なブランド構築の方法論が生まれ、無駄のない販売方法が生み出されていくことも期待しています。 これから時代は、大きく変化していきます。 その変化を、より良い方向へと引き上げていくのは、皆さん自身です。 時代のキャンパスは、まだ真っ白です。そのキャンパスの中に、皆さんの「人間的な魅力」をぜひ、色とりどりに咲かせていただきたいと思います。 文:佐藤秀治(お客様を動かす「共感づくり」の専門家)日本IBM、電通ワンダーマンを経て、現在、㈱プラップル代表取締役。コピーライターとして、企業のブランド育成やお客様事例制作に携わってきた経験から、お客様を動かす「共感づくり」をサポートし、事業や個人の成績向上を達成につなげるコンサルティングを行う。