9月末に行ったシリコンバレー視察で訪問した「LUUM」は「まつ毛エクステ」を自動化するロボットのベンチャー企業で、2018年に行った時は発表までは一切口外してはいけない「ステルスモード」だったが、マネキンに施術するデモを見た。 コロナ禍を挟んで5年ぶりに行ってみるとテスト営業が開始されており、インスタグラムやYouTubeのインフルエンサーの体験者による口コミ(SNS)だけで既に46ヶ所のサロンから170億ドル分の受注があり、2,000件のウエイティングリストができているという。 このロボットはカメラ、センサーで3次元の位置を捉えて植えていくもので、施術と同時に1セッションで50GBの情報を収集、そのデータを元に改良を続けている。 現在は片目20分かかるが、これから行う資金調達で両目同時に施術するロボットを開発して2024年末から納品を開始する予定だという。 LUUMによると日本のまつ毛エクステ市場は2022年が1,200億円で2027年には1兆円になるとされるため、アメリカだけでなく世界に進出したいと言っていた。 コロナ禍でサービス業を中心に人手不足が広がり、まつ毛エクステに限らず自動化、ロボット化の開発が加速している。 しかし、私は美容院、ネイルサロンなどの魅力の一つはコミュニケーションだと考えており、カットやネイルアートの技術は重要だが、美容師さんなどとの会話はどこに行くかを決める判断の大きな要素と思っている。 電車の自動改札、銀行のATMなどは自動化、セルフ化が当たり前になったものの代表格で、スーパーや衣料品店などのセルフレジも増えているが、これらは「相談」する必要がない、あるいはスマホの「乗り換え案内」アプリなどで代替できるものだ。 ロボットまつ毛エクステの「LUUM」も事前にどのような種類をどういう形で増やすかというデザインをラッシュアーティストと相談することが大事だと言っていたが、ファッション、美容など感性や好き嫌いが重要な分野は信頼できるアドバイスが必要で、その点では人間による対応が求められている。 昨年11月に登場して話題となっている「ChatGPT」のようなAIによる応対はその後も日々進化を続けているが、AIは学習した多くの事例から計算して返答をするので「平均的」「優等生的」な答えになりがちになる。だが、最新バージョンではリアルタイムの情報も取り込んだ返答もできるようになっており、SNSでの流行やトレンドに関してはよく知っている存在になりそうで、車のナビやGoogleマップ、乗換案内が人より正確で便利なのと同じように雑誌やSNSに出ているトレンドに関してはAIの方が詳しくなる可能性はある。 このAIはアドバイスを行う側にも使い勝手がいいので、幅広いSNSのトレンドやマスメディアの情報を効率よく知る道具にもなる。 私は試着をしないで服を買ったり、履かないで靴を買うのはリスクだと思っているが、その反面何となくその場の勢いで買ってしまって、あとから後悔した経験もある。 進化し続けているネット販売に対してリアル店舗がお客を引き付けるためには「効率」ではない「気持ちが通じる」コミュニケーションが大事だと感じている。 ロボット化、自動化、効率化が進む中で、リアル店舗でも人のコミュニケーション能力が格段と上がり、「あの人と話をしたい」「あの人に聞いてみたい」と通ってくれるお客様が増える時代の到来が期待される。文:高島健一氏(新規事業コンサルタント/高島健一事務所代表)世界中、人が集まる場所に必ず足を運び、自分で買い、体験し、ヒット商品、成長事業を誰より早く探し出す異色の新事業コンサルタント。慶應義塾大学湘南キャンパスと全国の企業を結ぶインターネット研究会「コマース・アレー」、全国経営者の会「耳よりの会」主宰。最新の新商売、新製品、新技術、話題の新施設、新しい売り方などの情報を提供するセミナーは目がさめると大評判。