デジタル化の加速を背景に EC サイトを通じた販売が 拡大している 今、 リアル店舗 では “体験の質”の重要性 が 高まっています。店舗へ直接足を運んだとき の体験が、 心地よく望ましい“ ポジティブな記憶 として来店者の 心に 残 れば、 その後の 消費者行動 にも大きく プラスに働きます。来店時の“体験の質 には、内装や BGM など様々な要因が作用しますが、 接客コミュニケーション における “距離感”もひとつのポイントになります。 熱心さのあまりに近づき 過 ぎても 、 不快感を与えてしまうことがありますし、 遠慮 して距離を取り過ぎて も 、 やる気がない といったネガティブな 印象を与え てしまうこと も あります。“ポジティブな記憶”につながる 距離感とコミュニケーションについて、 パーソナルスペースに注目し、 考えてみたいと思います 。パーソナルスペースと4つの領域ボディランゲージなど、非言語コミュニケーションの研究で知られるエドワード・ T ・ホール(1914- 2009) は、 アメリカの成人を対象に調査を行い、パーソナルスペースという考えを示しました。私たちは それぞれ、「自分の領域だ」と認識している空間 「 パーソナルスペース 」 をもっていて、 それをいつも自分の周りに まとっているかのように生活 しています。 そして その空間に他の人が入ってくると 、状況や関係性によ って「 快 」や「 不快 」 を感じます。パーソナルスペースは大きく4つの領域、「密接距離」「個体距離」「社会距離」「公共距離」に分かれます 。店舗においては、どの領域のコミュニケーションもみられますので、それぞれの 領域 の心地よい関わり方について 考えてみましょう。1.密接距離 (intimate distance)両腕を前に伸ばし て 円をつくってみてください。そのくらいが前方の 密接距離 の目安になります。 通常はごく親しい人だけが入ることができる スペース です が、試着の手伝い をする際や、周りには聞こえないように配慮して質問に答えるときなど、接客コミュニケーションにおいて もみられます。 距離が近くなる分、親しみを感じやすく、関係性を強化するチャンスにもなりますが、 緊張感や不快感を与えるリスクも高い領域です。「 失礼します」 などの 一言 や 相手に息がかからないように する 心遣いなど、“ 小さな配慮 ”が 近 接 時の 緊張感を和らげ ます 。 また、近づいた ときに相手がサッと離れるようであれば、その距離をキープしましょう。それがおそらく相手が今 望んでいる距離感です。 2.個体距離 (personal distance)乾杯!とグラスを合わせる様子をイメージしてみてください。 1 m 20cm くらいまで の 手を伸ばせば触れることができるような 距離感 です 。 商品を 一緒に見ながら横に並んで 質問に答えるときなど、接客コミュニケーションで も よくみられ ます。 リアル店舗に出向く目的として、「実際に商品を見ておきたい」といった声は多いもの。 そのような人たち にとっては 、このような距離感で の丁寧な応対や情報提供が 信頼感 につながり、「来てよかった」という満足感も高めます。 3.社会距離(social distance)上司が部下へ指示している様子を イメージしてみてください。 手は届き難 いですが 、相手の全体像が視界に入り、声も聴きやすい 、 3.5 m くらいまで の領域です。 接客の場面でも、試着室や陳列棚への案内や、カウンター越しの 応対 などでよくみられます。全体が視界に入るので、指先を揃えて場所を示すジェスチャーや、 歩く姿勢、 話しかけ られたときに 向ける笑顔や 会釈 といった非言語 コミュニケーション が効果を発揮しやすく、 好印象に も つながります。 4.公共 距離( public distance)マイクを 手に 多数 の 人に話しかけ る 様子をイメージしてみてください。 3.5 m よりも離れるので 、 細かい 会話は進め 難く、個人的な 関りというよりも、 周りにいる複数の 人々、 という距離感です。 店舗における接客コミュニケーションでは、セール やイベント などの混雑時や、ウィンドウショッピング目的の来店者 との関り など、少し距離を保ってフォローする場面によくみられます。 「自分だけで好きに見たい」という来店者が取りやすい距離感でもあります。邪魔にはならないように、でも素っ気ない印象にはならないように、 「ご来店ありがとうございます」「ごゆっくりごらんください」など、広く呼び掛ける声を届け続けること が 効果的です。 文:晴香葉子東京都出身。専門は 心理学 ・ コミュニケーション学 。 早稲田大学オープンカレッジ 心理学講座講師。 メディア での心理解説実績、著書多数。企業での就労経験を経て心理学の道へ。研究を続けながら、様々な角度から情報を提 供。 執筆、講演、監修などの活動を続けている。https://harukayoko.com/