私たちのコミュニケーションは、⾔葉だけではなく、表情を含む⾮⾔語の情報によって成り⽴っています。特に販売の現場では、お客様に共感を⽰すことが良い接客につながり、ひいては顧客満⾜度や売上向上に⼤きな影響を与えます。お客様から信頼感を得るためには、⾔葉だけでなく、TPO に合わせた適切な表情を使うことが⽋かせません。1. TPO に応じた表情の重要性TPO(Time, Place, Occasion)に合った表情を意識することは、円滑なコミュニケーションにとって不可⽋です。接客業では、笑顔が⼤切なイメージがありますが、実際にはお客様の⼼理や状況に応じた表情を適切に使い分けることで、よりお客様に寄り添ったサービスを築くことができます。また、⾔語の壁があるインバウンドのお客様に対しては、笑顔や適切な表情がコミュニケーションの鍵となります。そのためにもいくつかの表情のパターンをトレーニングのように使い分けられるようにすることが接客のコツとなります。すでに買うものが決まっているお客様はブランドイメージや商品の良さが主な決め⼿になります。それに対し、何か良いものがあるかもしれないと来店したお客様に関しては、店内の雰囲気だけでなく販売員個⼈の表情や⼼地よい⽴ち振る舞いが商品より購買⼒に影響を与えます。お客様の状況や⼼理を察知し、意識的に表情を作るトレーニングをすることでより優れたコミュニケーションスキルを⾝につけることが可能となります。2. 表情⼒の落とし⽳必要に応じて表情を切り替えることはとても簡単にできるように思われますが、実際⾏ってみると理想通りにいかない場合も多いのではないでしょうか?現代⽣活では、表情を司る顔の筋⾁「表情筋」が衰えやすい要素がたくさんあります。例えば、マスク⽣活が⻑く続いたり、スマートフォンを⻑時間使⽤する⽣活が習慣化したことによって、表情筋を動かす機会が減り、「顔の運動不⾜」に陥っている⽅が多い傾向があります。表情筋も体の筋⾁と同じで運動不⾜になれば衰えていきます。表情筋が衰えると「表情筋の瞬発⼒」が⽋如し、パッとお客様と⽬が合った時に適切な表情が作れないことがあります。また、⼝⾓を上げる筋⾁を使い慣れていないと、⾃分では笑っているつもりでも相⼿からはそうは⾒えずに、誤解される場合もあります。体がなまっている⼈が、急に全速⼒で⾛ろうとしても、⾜がもつれてうまく⾛れないのと同じことです。コミュニーケーションがうまくいかない、⼈間関係のやり取りに⾃信が持てない⽅には、ぜひ表情筋をトレーニングすることをおすすめします。表情⼒はトレーニングによって育つのです。3. 表情のトレーニングと実践TPO に応じた表情を5つイメージしながらそれぞれ練習してみましょう。具体的には⼤頬⾻筋と⼝⾓挙筋という2つの筋⾁を動かすことで、よりメリハリがつきます。あごに⼒が⼊って笑っていると下⽅向に引っ張られて、頬や⼝⾓が上がりづらくなります。そのため、⼝⾓がうまく上がらない⽅は、あごに⼒が⼊らないよう確かめながら⼝⾓を上げることがポイントです。【鏡を使った練習】⼝⾓の上がり⽅が左右均等になっているかを確認しながら⾏います。① 謝罪の表情② プロフェッショナリズムを感じる誠実な表情(お客様に説明する場合)③ 上品な表情(お客様の様⼦を伺う、感謝や敬意を⽰す場合など)④ 明るく親しみやすい表情(共感している場合など)⑤ 最⾼に楽しい表情※少しずつ⼝⾓が上がるイメージで①〜⑤の表情を作ってみてください。【ロールプレイング】実際の接客シーンを想定し、場⾯ごとに適した表情を、鏡を⾒ながら練習しましょう。何度も練習を重ねることで、顔と脳にその動きを覚え込ませます。鏡を⾒なくてもその動きができるようになるまで繰り返してください。再現性を得ることで実際の現場でも⾃信が持てるようになります。【飾り付け】表情だけでなく、声のトーンや話し⽅を練習することでより、さらに説得⼒のある接客が可能となります。4. フェイシャルフィードバック効果をうまく使って皆さんは「フェイシャルフィードバック効果」をご存知でしょうか?「表情を作ることが、その表情の感情を引き起こす」という⼼理的効果のことをいいます。わかりやすくいえば、不機嫌な顔をしていれば気持ちも下がり、笑顔を作れば気持ちも上がってくる。つまり「表情の後に⼼がついてくる」ということです。フェイシャルフィードバックによる表情と気持ちのコントロール術は、仕事でもプライベートでも活⽤できます。例えば、仕事でトラブルがあった⽇こそ、終業後はあえて明るい表情に切り替えてみてください。意識的に深呼吸をして「顔・体・⼼」のあらゆる無駄な⼒を抜き、リラックスした表情を作ることで、仕事のストレスを引きずることなくプライベートの時間を過ごすことができるでしょう。同様に、もしプライベートで気になることがあったとしても、職場に着いたら「仕事⽤の表情」を作ることで、⼼⾝が⾃然と仕事モードにシフトしていく効果が期待できます。表情が変われば、気持ちが変わり、⼈間関係が変わり、⼈⽣が変わります。お客様との信頼関係も、⾃分の気持ちも、「表情から作る」ことを意識してみてはいかがでしょうか。表情筋トレーニングによって表情を操ることができるようになれば、仕事でもプライベートでも、きっと新しい発⾒があるはずですよ。文:間々田佳子(表情筋研究家/ままだよしこメソッド株式会社 代表取締役)顔ヨガ講師を経て、表情筋研究家に。コアフェイストレーニング(顔筋トレ)考案者。自身のたるみ顔を改善した経験を踏まえた顔の筋トレがメディアで話題となり、 以来大手企業の社員研修や女性向けの大型イベントで講師を務めるなど、全国各地で活動。昨今は表情でビジネスを向上させる講演や研修,オンラインサロン(https://lounge.dmm.com/detail/8041/index/)も開講するなど、多分野で活躍中。公式サイト:https://www.mamadayoshiko.com/●コアフェイストレーニングとは?表情のクセを外し、表情筋の正しい動かし方を知ることによって、理想の顔を自力でつくるトレーニングです。顔の土台となる頭蓋骨の位置をからだから整えながら、顔を左右均等に動かすことで、血行やリンパの流れを促し、バランスのとれた弾力のある表情筋を作ることを目的としています。